救いはどこにもないけれど
本作のレビューを書くにあたって、自分にしてはめずらしく文章をこねくり回している。読了してからかなり時間が経過していたためあちこち拾い読みをしていて、初読み時とは異なる感想が出てきてしまったからだ。いまもやや混乱しながら書いている。 初読み時は完全なフィクションとして読んだ。だがしかし、おそらくこの作品も著者の別作『ピョンと僕と残酷と』と同様、実体験が多くを占めているのだろう。 さらには、本作がバッドエンドVer.ならば、『アル中放浪記』はその対にあたり……それぞれの作品がそれぞれに主張しつつ、融合して混沌とした人の生を深く濃く浮かび上がらせる。 ◇ 16歳の「僕」が夏休みを父親のアトリエで過ごそうと、旧型客車に乗って一人、山形県へと向かう——それは彼の人生で一番か二番か、とにもかくにも楽しい時期であったらしい。大人になって幸せを手にし、それは永遠に続くかに思われたが—— 親の家が同じく東北にあり、旧型客車の内外描写も車窓から見る田園風景も、どれもこれもいつか見たことがあるという親近感に、鉄道旅行が持つ万国共通のノスタルジー、スラスラと読みやすい文体が作品の持つ本質的な悲惨さを和らげ……いや、違うか。『私(わたくし)小説』の一つの理想型を提示されているのかもしれない。 心の健康を確認してから読んだほうがいいとは思うが、読後感はけっして悪くない。むしろ爽快感すら覚える。主人公は○を持ってようやく救われたのだ。○出の旅をスーパー8で撮影したロードムービー。男って悲しい。
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うわー神様からのプレゼント レビューありがとうございます。 この作品、まだ自分が執筆したての頃で いろんな実体験をいろんな作品に登場させてしまっています。性格上 物語の創意に欠けるので、どうせなら自分の半生を書いてしまっていますね。16歳という多感な時期を映像や風景に転写したくて必死に書きなぐったのを覚えています。私小説の理想だなんてもったいないお言葉。僕のよく使うアウトオブボーダー そう性格がそうなってしまったのでバッドエンドなわけですが、それも悪くない。物事すべてハッピーなんて常識ではありえない。読後に爽快感さえ感じていただけたら本望です。ありがとうございました。
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