いるか

作り込まれた世界観。文章をとおして読者に物語を追体験させる巧みな文章術。
今作もとても没入感が素晴らしい。 本作は夢と現実を行ったり来たりして、夢を手掛かりとして蓋をしてしまった忌まわしい過去の記憶を呼び戻すという流れの作品である。 夢は最初文章を読んでもなかなか印象がつかめない。登場するアレも、舞台設定も、全て曖昧である。何とも理解しにくく表現されているのは、主人公が見る夢が曖昧だからであり、作者も文章を読む事でそれを体験しているのである。 物語はいつの間にか舞台が夢の中に移っていることがしばしばある。これも説明がないので一種の夢オチのような展開になるのだが、これもまた主人公がいつの間にかうたた寝していたり、夢と現実が曖昧になったりしている事を読者に体験させる効果を持つ。 このように主人公の体験を追体験するような文章術によってどんどん物語に引き込まれていく。そして同じ家の隣の部屋に住んでいる妹の存在にどんどんと疑念を持つのである。適度に解説された伏線要素が読者の組み立て方によって様々に解釈できるように置かれており、良い意味でミスリードさせて緊張感ある展開に持っていく手法は見事である。 本作の核となるギミック(入れ替わりと表現しておきます)は現実的でないところもあるが、説明的になり過ぎず幅を持たせた文章表現にしてあることからほとんど気にならず、ホラー・ミステリーの世界観を存分に楽しむ事ができる。 著者別作のメモリアでも感じた事だが伏線回収はとても丁寧であり、最後に儚録が別の人の手に渡る事で更なる展開も含んでいる(のだろうか)。 文章全体はそこまで長くなく2.3時間もあれば読み終える事ができる作品であるが、人間味溢れる友人との会話や緊張感ある展開などメリハリのきいた作品構成でとても読みやすく、細かく書き込まれた情景描写や心理表現から世界に深みが感じられる。文章の長さと作品の深さは無関係であると改めて感じられた作品である。 読み終えたら感想をお送りする約束をしておりましたが、連絡手段が見つからなかったので直接感想を残しておきます。素晴らしい作品をありがとうございました。
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この度は素晴らしい感想をありがとうございます。 コレ程までしっかりとしたレビューを頂けると、書いた人としては本当に嬉しいのですが、この感想に見合った返信が全く思い浮かばずただただ感謝を繰り返すばかりです。 発展途上の翻 輪可ですが、宜しければコレからもよろしくお願いします! あと、その件に関しては申し訳ありません!入り直します!

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