瑠璃川琥珀

価値観や思想を挑発するミステリー。その想像、創造を、その目にしかと焼き付けろ
日常の謎ならぬ、現実の謎に迫るこのミステリーの核となるのは、岡本太郎氏が、どういった経緯で、あの変テコな太陽の塔を創造したか?になるだろうか。実物を見たことのない私でもあの異様な外観には疑問をいだいた。 しかし物語の結末を読んで、私は驚嘆した。そう見えてしまうと、もうそれにしか見えなくなってしまうほどに。この感覚を最後まで読んで体験して欲しい。 現代社会が抱える問題を風刺しつつ、物語は進む。少しさかのぼって戦争に触れ、やがて太陽の塔の謎に主人公が解を出すという展開。 まず言って、しょっぱなから作者特有の難解さである。とても詩的で抽象的でどういうことかと頭を悩ませた。何度か注意深く読み返してみると、充分に描写、表現してあるのがよく分かる。 この作品の裏テーマに戦争が絡んでくる。戦争に対する考え方は人それぞれあるだろうし、私はその方面にうといので、とやかく言う資格はない。ただ、怒りの鉾先が違うのではないか、ということ。そして、暴力で解決してはいけない、ということには共感できた。 そして太陽の塔が視界に入った時、主人公は太陽の塔がどういった発想でつくられたのかに気づかされることになる。これは岡本太郎氏に聞かないと分からないだろうから、真実は闇の中である。だけど作者が仕込んだ伏線 ーー違う。それらは自然とそこにあったものだーーを結び合わせると、その答えが正解にしか思えないのも確かだ。 ミステリーとしての伏線の出し方も上手い。かなり大胆に目の前に掲示されているにも関わらず、それらは個々のものであって、まさか最後に集約されるとは思わなかった。 ここからは私の想像になるが、太陽の塔の内部には、「生命の樹」なるものがあるという。結論を聞いたあとで、太陽の塔は、生物を過去から未来へ運ぶ方舟だったのではないか、と思った。 調べると、太陽の塔には第四の顔があり、地底の太陽なるものが存在したそうだ。頭頂部の黄金の顔は「未来」、正面の顔は「現在」、背面の黒い太陽は「過去」をあらわすらしいが、地底の太陽は「太古の太陽」というらしい。過去もあって太古もある。ならばこの過去とは「近代」のことであって、おそらく戦中、をあらわすのだろう。時間軸は太古から未来へ流れ、戦中、戦後を切り取ったのが塔の胴体のように思えた。 人類は太陽を、宇宙を目指して進むだろう。そんな想いが込められているように感じた。
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