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きっと芽吹く
ことりはねヽ(;゚〇゚)ノ アウアウ
2020/11/19 17:07
おいしい珈琲とやさしい物語売ってます
駅に降り立った瞬間、来たことを後悔した。いま、ここに立っている違和感ときたら——すでになんの関わりもない街なのに、当時の記憶が次々呼び覚まされて僕を過ぎし日へと引き戻す。 街も住民も僕を受け入れるのに躊躇している……どころか、のこのこやって来た僕をあたかも総出で非難しているようだ。 どうして来てしまったのか自分でも分からなくなってしまい、駅から徒歩ですぐの木もれ日の径(新堀用水)を散歩して、そのあとパン屋でパンでも買って、市民体育館の敷地内にある中央公園で時間を潰そう。いますぐUターンして帰ってもいいのだが、せっかく小一時間かけて来たのだ、少しだけここで過ごして時間の遡行をしよう……脳内でスケジュールを組み立てている僕の目の端に、つとあの頃は見ることのなかった異物が姿を現した。 〈如月亭 おいしい珈琲とやさしい物語売ってます。癒しの時と笑顔をあなたに〉 『……モービルブックカフェか、へぇ。木もれ日の径を散策したあと行ってみるか』 「いらっしゃい。ご注文は?」 ぱっと見まだ10代後半か20代前半くらいの女性がにこやかに応じてくる。店舗でもないのに胸には名札がついていて、カタカナで〝カナ〟とあった。くさくさした僕の心が解かれていく。 「珈琲と……やさしい物語を一つください」 「かしこまりました。どうぞ、お好きなところへお座りください。ちょうど先日入荷したばかりのとてもすてきな物語がありますよ」 〝カナ〟は顔を綻ばせながらそう言って車両の奥へと消えた。どこに座ろうか逡巡していると、背後からにゅっと一冊の本が差し出された。 「うわっ、ビックリした!」 「アハハ、ごめんなさい、ワザとです(笑)」 コーディネイトは〝カナ〟と似ているが、こちらは〝カナ〟より快活な印象を受ける。胸の名札には〝ミナ〟 「ゆっくりしていってくださいね!」 陽気に手をふり、〝ミナ〟は踵を返した。どうやら彼女の担当はブックのほうらしい。 オーダーカウンターにほど近い席に腰を下ろし、僕は〝ミナ〟に渡された本の表面に触れながらタイトルを音読してみた。 「『きっと芽吹く』」 芳醇な珈琲の香りが鼻先をかすめ、ふと顔を上げると、〝カナ〟がコーヒーと小さな菓子の乗った和小皿をテーブルに置いて去っていくところだった。我知らず物語世界に入り込んでいたようだ。 駅に降り立った時の後悔はきれいさっぱりなくなっていた。
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ことりはねヽ(;゚〇゚)ノ アウアウ
2020/11/19 17:09
如月さん。ごめんんさい、ごめんなさい、ごめんなさい💦 一応レビューっぽくしたつもりなんですけど……
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如月 康志
2020/11/19 22:27
ありがとうございます🎵 うわ~!! すっごいステキです!! すっごい嬉しいです✨ めちゃくちゃ嬉しいです🎵 カナとミナの未来を考えた事もなかったのですが、彼女達はもう少し成長したら、描いてくださったように、モービルブックカフェ(しかも如月亭!!なんて嬉しいのでしょう✨)でさりげなく働いてくれているのかと思うと、すっごく嬉しいです🎵 こんな未来のステキな物語をプレゼントしていただけるなんて、本当に感激です✨ コーヒーの芳醇な香りと、本の香りが感じられるステキなプレゼントを、本当にありがとうございます✨ 新堀用水(木漏れ日の径)、私知らなかったのですが、調べてみました。 ステキな所です
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