須恵堂美香

「そんで?君は何を得た?寂しさを偽物の感情で埋めて、それで、何を得たというの」 そうやって理論的に感情を構築しようとする姿、それこそが「パンクじゃない」というやつじゃないだろうか。 だから僕はイヤホンを外さず、薄ら笑いを浮かべながら「パンクに」彼女に言ってやったのさ。 「君が人生で得る以上のものさ」 「具体的には?」 「君が具体的に説明できるなら僕のもできる」 「質問してるのはあたしなんだけど」 「君ができないのなら、僕のもできないさ」 「ふざけてるの?」 「ふざけてないことなんてこの世の中にあるのか?人の死だってお笑い草になる世の中だぜ?」 「…っ!そうやって逃げ続けるのね」 「逃げる?そうだろうな、少なくともお前の金にもクソにもならねえ押し問答からは逃げるだろうさ、当ててやろうか、お前はそうやって人に『正しさ』を教えようとする自分に酔ってるんだよ」 「質問にあくまでも答えない気なのね」 「質問に答えないのも回答者の自由だ、尋ねれば答えが絶対帰ってくると思うなよお嬢ちゃん」 「そうやっていつもいつも、本心を隠して生きていくのね」 「違う違う、勘違いしないでくれ、僕はそんな冷徹な人間じゃないさ」 「じゃあどうして答えられないの?」 「君に答えたくない、じゃあダメか?」 「答えられないからでしょ?」 「違うよ、君がただ純粋に嫌いなんだ、会話もしたくない」 「それはあたしの質問が怖いからでしょ?」 「違う違う、単純に君と喋りたくないんだ。さっきから僕が下を向いているのは君と目も合わせたくないんだ」 「じゃあはっきり嫌いって言ったら?」 「そうしたら君は傷つくだろう?嫌だね、そういうのは察してもらわないと、本音と建前の文化って知らないの?日本人のくせに」 「わかったよ、君がそういう人だって」 「わからない、何で君が人から受けている悪意を素直に認めないのか、それこそ君も逃げているんじゃないか」 「あたしのは逃げじゃないわ。話にならない人に呆れているだけ」 「理解できないものを自分の理解の範囲に押し込めようとすると、人はいつだって傲慢になる。君がまさにそれだ」 そうしてゆっくりとした口調で、ありったけの感情を込めて僕は彼女にこう言った。 「哀れな人だ」 少しの間があって、彼女が何かいう前に、僕はその場をそそくさ離れた。最後に喋ったやつが、この場では勝つのだ。

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