鷹取 はるな

剣をもたらす者(劇中劇の後日談のつもりで。感想にかえて)
 彼は教会が嫌いだった。 『祈りの家』と尊ばれていたとは思えぬ程に蹂躙されたとなると尚のことだった。  彼が小さく吐いたため息は、すぐさま奥歯を嚙む音へと取って代わる。 又、間に合わなかった――。  悪魔は自らを狩り立てるハイドを嘲笑うかの様に、彼の切っ先をかわしていく。 その抜き身に染み込んだルイードの血が、同胞に警鐘を鳴らしている様だった。  崩れ落ちた祭壇の隙間、引き倒された十字架の格子の向こう側にうずくまる人影をハイドは見つける。 「・・・・・・」  未だ子供、十代半ばくらいの少年だった。 頭を覆う髪が赤いのは生来だろう。 ひどく汚れてはいたが、円い顔や小柄な体に傷らしいきずは見当たらない。 「貴方は――」  ハイドは、少年が恐らく必死に発しようとする声に言葉にじっと耳を澄ませる。 「平和ではなく剣をもたらすためにやって来たのですか⁉」 「⁉」  少年の、ハイドを睨む目は髪よりも赤い。 まるでそう、村人の返り血を浴びたルイードのように。 「おまえはどうして逃れられた?」 「欲が孕んで罪を生み、罪が熟して死を生みます!それが悪魔を呼び寄せるのです!僕にはそれが分かります!分かりますが」  ハイドは黙って少年の言葉を待った。 「僕には何も出来なかったっっ‼」  叫んだきり絶句する少年の腕を、きつく握りしめる拳の腕をハイドは引っ張り寄せる。 「⁉」 そうして立たせた少年の背はハイドの胸の辺りまでしかなかった。 「おれと一緒に来い」 「え・・・・・・?」  少年の言葉を返事を今度はまるで待たずに、ハイドは出入口へと進む。 少年の腕を掴む手と力とはそのままで。  外へと出たハイドはようやく少年を放し、半ば崩れている教会へと向き直った。 下げていた剣を抜き、雲一つない空の真上へとかざす。  剣が、空が光った。 続けて雷が教会へと真っ逆さまに落ちる。 見る間に燃え盛る炎へと包まれていった。  それを背にしハイドは少年へと告げた。 「おれはこの火に悪魔を投じ続ける」 「貴方は一体――」 「悪魔祓い師だ。悪魔の匂いが分かるのならばおれと共に来い」  ハイドが差し出した左手を少年は震えながら、しかし、しっかりと握りしめた。 そして、はっきりと告げる。 「でも剣を取る者は皆、剣で滅びます」  少年の言葉にハイドは笑みらしきもので応えた。                終
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嬉しい!! わぁ、むしろこれ続けて(ゲフゲフ) ハイドはここに至るまでかなりの修羅場を越えてきたとみえますね。 しかも家宝の聖剣、ルイードを殺した事で妙な魔力が宿ってるし( ´艸`) そして少年は真っ直ぐで素直な、まさにイーデンを思わせる子なのですね( ´艸`) 最高の形で感想を頂きまして、感謝感激雨あられです!
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先ずは、こんな変則的な感想・レビューを受け入れて頂きありがとうございますと言わさせて頂きます! もう、自分のリビドーに忠実に従った結果です。 そう言って頂けて、こちらこそが感謝感激の大嵐です。
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