小池 海

水滴に埋まる窓の向こうに星が輝くとき、少女は
大人とは、「個」としての責任と地位を負う存在で。 大人の2歩ぐらい手前の高校生にとっては、「個」が脅迫めいて重要に思えてくる壁で。 個性が大事だと聞かせれ、個性のある人が目につく社会。 その中でひとり立って見る世界は、晴れているだろうか。 周りが眩しくて見えなくて、振り返った自分の影の濃さに、ああ自分には価値がないと感じてしまう。 豪雨の中を走る車の窓ガラスは叩きつける雨粒で見えない。 香る匂い。流れてくる音。いつもいる親友。仏頂面の男友達。私を取り囲むリアルに、気づいているようで気づいていない。 私とは何からも独立した存在であり、物理法則がプログラムされた世界は勝手に流れていく。 この世界を、揺らぎのない、虚無と悲哀の世界と、夏帆は表現した。 けれど、世界は本当にそうなのだろうか。 太古の昔より、人々は不変の星を頼りに海を渡った。 一方で、その想いを恣意的な物語として星に込めた。 不変でありながら無限の可能性である、夜空の星。 星空というものが個々の星が集まってできているように、私という存在はこの世界との関係性において生じているものだと思う。 その関係は星座のように恣意的だけれども、描いた線が消えることはない。 千年以上たっても、星座は星座のままなのだから。 梢や瑠希、要との交流を通じて、夏帆には徐々に世界が見えてくる。 雨はあがり晴れた夜空に、夏の大三角形が見える。 自分を取り囲む優しさに触れ、愛されていたことに気づいたとき。 世界は至ってシンプルで、特別なことは何もないことに気づいたとき。 夏帆がとる行動が、この硬直した世界を変えるきっかけになる。 ただの日常。けれど、限られた時間の、日常。 容姿も性格も違う女子高生3人のひと夏の物語は、この世界の無限とつながりを、個を自覚させられ悩む年代に感じさせ、在りし日を懐かしむ年代に思い出させてくれるでしょう。 愛すること。 受け入れること。 不変に見える世界を、無限の海に変えていくこと。 先の見えない世界をこれからも生きていく若い人たちに、必要な考えなんだと思います。 読んでいて、都会(福岡は都会ではありませんが)では見えない星空が浮かんできました。 初の中長編、お疲れさまでした。 そして、ありがとう。 新しい世界に足を踏み入れた水郷さんの頭上に、星が輝きますように。

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