葛城 宙夜

あなたの心の種にも、きっと力が与えられます
 子供を主人公とした小説作品を書くのは非常に難しい。技量のない作家がそれを描こうとした場合、主人公が必要以上に子供じみてしまったり、逆にひどく大人びてしまったりするのが常である。そのため主人公の本来あるべき姿との乖離が生じ、作品全体が稚拙な印象を纏ってしまう。したがって、大人向けの一般作品として子供を主人公とした作品を仕上げる場合、作者には非常に繊細なバランス感覚が求められることになる。  仁海ゆうやという作家は、そうした繊細なバランス感覚を自分の中にしっかりと持った作家であると、私は本作を通じてそう感じた。本作には小学六年生、小学三年生、小学一年生という、年齢の近接した三人の少年が登場する。しかし、小学校の六年間というのは、人の人生において非常に成長著しい時期であり、たとえ年齢が近接していたとしても、その子供らしさはそれぞれにおいて異なるものである。それを的確に捉え、描き分けることは、決して容易なことではない。  それにも関わらず、この仁海ゆうやという作家は、本作品の中においてそれを見事に描き分けている。小学六年生には小学六年生の、小学三年生には小学三年生の、小学一年生には小学一年生の、それぞれに相応しい子供らしさというものが与えられている。登場人物たちはそれぞれに相応しい子供らしさを与えられることで、作中において生き生きと活動することができている。技量的に非常に優れた作品であると私は感じた。  少し内容にも触れておこう。傍若無人な小学六年生と、それに悩まされる小学三年生と小学一年生の兄弟。『世界征服の花』というものを通して、そんな兄弟が一つ心の成長を得るという物語。自分自身の幼少期を思い出すことができるような、心温まるストーリーである。読後、読者の心の種にも優しい力が与えられるのではなかろうかと私は思う。そして、私の心の種にも、優しい力が与えられたような気がする。 2021.5.4 葛城 宙夜
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