佐野 木綿季

美しい少年の愛と挫折の物語
拝読させて頂きました。 お返しのレビューが本当に恐ろしいほど遅くなってしまい、申し訳ありません! 以下レビューになります。  以前読ませていただいた作品でも思ったのですが、物語の世界へ一気に引き摺り込まれる一文から始まるお話です。  まずは読了後の作品の印象から書かせていただきます。 はじめに思うのは、主人公ジルベールを形容する言葉の数々。美少年の描写をする言葉がこんなにあるとは……と、まず驚かされます。 辞書にある全ての美しい言葉を要しても、形容しきれない彼の美貌が窺えるようでした。 容貌の描写に加えて、世界観の描写もかなり細かく書いてあり、脳裏に13才のジルベールを取り巻く世界がありありと浮かびます。  そして、言葉を尽くした描写がかなり細かいのに、文章的にくどくなっていないところが、この作品のすごいところです。 叙情的でありながら、13歳の少年が見る世界の雰囲気を出すのが、とても上手だと思いました。  また、地の文の精度もさることながら、セリフ力がものすごく高いと感じました。 セリフだけで構成されているわけでもなく、地の文が勝ちすぎているわけでもなく、読者の読みやすい黄金比とでもいうのでしょうか。絶妙なバランスで配分されています。 話の切れ目、場面転換や視点転換も綺麗に流れるように配置されていて、頭の中で色々な人物の心の内が読んで再生されるのですが、混乱しない点もとても上手だと思いました。 時折細々と出される外国の物が、異国情緒を匂わせており、それも作品の緻密な雰囲気作りの一助になっていると思いました。 (この下から少々ネタバレがあります)  次に私の解釈を少々書かせていただきます。  物語は青年になったジルベールと少女クラーレットの旅の一幕から始まります。 暖かい気候の島の、爽やかな2人の旅のシーンがあり、穏やかな印象の物語の始まりです。けれども、ジルベールの持ち物である真鍮のペンダントの中の写真をクラーレットに見せるところから、物語は急転します。  ジルベールは物語終盤まで、優しい両親と彼を思う姉兄に恵まれ、とても良い家庭で育っていたことがわかります。 けれど、ジルベールの見る世界は彼のそれまでの生き方ゆえか、かなり擦れているように読めます。10代特有と言ってもいいような、灰色の視界のようなものでしょうか。 →(コメント欄は続きます)
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幸福を幸福のままに受け止めきれない、大人に混じりきれない子供の世界が実によく書かれています。  彼がミラベラと出会うシーン。 ここで1番情けないと言っても過言ではないような姿を見せていることが、彼らが深く関わっていくきっかけになったのかなと思いました。 素直になりきれない少年ジルベールの心情と、傷ついた子供を放っておくことができなかったミラベラの心情が、とても退廃的に描かれています。 まだこの出会ったばかりの2人の会話はどちらも信用しておらず乾いたもので、この2人の会話が徐々に熱を帯びて愛に滲んでいく過程がとても素晴らしいです。 序盤は、ジルベールが子供の勢いそのままにミラベラを口説こうとする
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ミラベラを失ったジルベールが、1人の少女と出会うまで、彼の心の削れ方がありありと見えます。 大人になった自分と端々に蘇るあの頃の思い出と、変わったものと変わらないものとの間で、精神が削れてくのを気にもせず、投げやりに生きている、荒廃した彼の生き方が彼女への愛の重さを物語っているように思います。 そんな自分の半分が削られたような状態の時、彼女に似た少女に出会ったのなら、手を離せなくなってしまうのは、きっと必然。 ミラベラとの別れがジルベールの運命だったのなら、クラーレットとの出会いもからの運命だったのでしょう。  一度は失い、救われることも拒絶した彼が、救われるにはその少女との出会いが必要不可欠
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