【コメント】小説家の想いは

ムサシとコジロー

小説家の想いは

年齢も四十手前、売れない小説家である主人公が、飼い始めた雑種犬ムサシと茶トラの猫コジローとの暮らしの中で、自分を見つめ直すいくつかのきっかけのなるエピソードを描いた、素敵なヒューマンドラマです。物書きとは孤独な職業。高い壁に当たって燻っている主人公の苛立ちや諦め、無力感のようなものが中盤まで滲みます。しかし、過去の想い出も絡め、後半に掛けて起きるハプニングは、それまで描かれたいくつかのエピソードを踏まえ全て主人公の僅かな「変化」のきっかけとなるものでした。恩人、元恋人、仕事相手、そして四つ足の家族達。周囲の関係性とは、生きる上で独りよがりにならずに良い方向性へ人生を正してくれるものだと、この小説を読み気付かされます。とても素敵な短編小説でした。