昭島瑛子

過去を乗り越えて光ある未来へ歩んでいく(オムニバスレビュー・ディープ編)1/2
※本レビューは雲灯さんの作品『兄はロボット』『ラウドシティ・オムニバス』『この人と結婚するんだと思った』のネタバレを盛大に含みます。 スピンオフ作品では、時として本編の真のエンディングのような物語が描かれます。 「ユートピア」「寄る辺なき世界のロボット」「三人目の祝辞」の3本は、『兄はロボット』の真のエンディングと呼べる作品です。 この3本を通じて、かつて虐待を受けていたユージが自分の本当の欲求に向き合う過程が丁寧に描かれていきます。 「ユートピア」で愛されたかった自分に気づき、「寄る辺なき世界のロボット」で自分の過去の傷と向き合い、「三人目の祝辞」で過去を乗り越えて自分の将来と向き合います。 この3編のうち、「寄る辺なき世界のロボット」で感動させられたのは、作者の雲灯さんのロボット観です。 現実世界のロボットは、単純作業や危険作業など「人間がやりたくないことを代わりにやってくれる」存在を期待されています。一方でロボット技術が進化すると「ロボットが人間の仕事を奪う」脅威として恐れられます。 雲さんが描くロボットはどちらでもありません。ロボットにはロボットにしかできないことがあり、人間には心を開けなくてもロボットには心を開ける人間がいます。 「ロボットにしか心を開けない」などというと異常な人間に思われる恐れもありますが、雲さんが描くロボットは「心がないのに人を抱きしめてくれる」のです。 ユージはまさにロボットになら心を開ける人間であり、ロボットによって癒やされていきます。 ちなみに「寄る辺なき世界のロボット」の主人公はデイヴ・カンテラですが、本作品ではデイヴの変化も描かれます。 カウンセラーの仕事が忙しくてロボットにやらせようと思っていたデイヴが、ロボットにしかできないカウンセリングがあると気づく姿は感動します。 「三人目の祝辞」は、私の強靭なはずの涙腺を崩壊させた作品です。 ユージを置いて出て行った母・篠宮牧と、再婚相手である浦添貴志。 二人はまったくの別作品である『この人と結婚するんだと思った』に登場します。 私は『この人と~』を読んだとき、一瞬「あれ?」と思いました。 (長文すみません。続きます)
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