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助手席
はーこ
2021/8/11 20:07
『助手席』にまつわる純愛物語
まず、冒頭のお父様の言葉が印象的でした。新人ドライバーの息子に『格好良く』ではなく『安全に』運転することをこんなに説く人は、そうそういませんよね。 両親の馴れ初めを聞かされた、と息子の軽いあしらいでその場面終わってしまうのですが、この一連のやり取りこそが、物語で最も重要なシーンでした。 恋人ではあるけども、それも友達のような感覚で、今以上の関係に踏み出せない主人公たち。それも、礼子がひき逃げに遭い、病院へと急ぐ車のハンドルを握ったことで、主人公の心境に変化が起きて。 私も救急現場に近い仕事をしていますので、サイレンを鳴らしているにも関わらずかなりの低速で走行している救急車はくも膜下出血などの患者を搬送しているため、運転手は道路の凹凸や周囲の車の動きに気を配り、わずかな振動も起こさないよう細心の注意を払っていると聞いたことがあります。礼子を連れて病院へ向かう主人公も、まさにそういった状況に立たされていたのでしょうね。 たしかに、礼子から連絡を受けて、すぐに警察や救急車を呼ばなかった主人公の行動は適切とは言えないかもしれませんが、新人ドライバーです。物損事故を起こしたとしてもパニックに陥る可能性もあるわけです。ましてや、大切な人がひき逃げされたともなれば、錯乱もするでしょう。普段からそういった現場をよく目の当たりにしている医療従事者や警察関係者は、冷静に対処できるかもしれませんが。だから「よく頑張りましたね」って褒めてあげるだけでいいじゃんもう…… と思ったりした読者でしたが、ラストの「たとえ救急車でも、赤の他人が運転する車じゃ駄目だった」──だから信頼している主人公に病院へ連れて行ってもらいたかったのだという礼子に、心が洗われました。ドキドキハラハラしましたが、最後はホッと安心できる素敵な純愛物語でした。おふたりとも、末永くお幸せに。
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