ヒロアキ

悪魔の問いと主人公の語りかけは,私たちの心肝を染める
 この作品は信仰に篤い女子中学生ますみと、悪魔エスレフェスという主人公を通して語られています。神の愛という信仰と愛を欲する人間と言えば良いだろうか。これらを悪魔との魂の契約を巡って、極限的な道徳心の葛藤が描かれていきます。  圧倒的なのは、悪魔とますみの間で繰り広げられる、作者の論説とでも言うべき手腕だったと思います。自分のペコメを見返すと、私は何度悪魔に魂を売っていたか分からないでしょう。ただし、これはそこへの是非は問うていない。言うなれば、読者への問い掛けだったのかもしれません。  こうした読者の心理をこの悪魔とますみ、そして後半の美琴と悪魔を通じて、対極的に構成された作品です。私がもう一つ圧倒されたのがこの構成力でした。目次を見る限り、エピソード、幕間の繰り返しという単純構成に思えますが、そうではなくて、実に絶妙な切り返しで幕間を挟んできます。この幕間がつい今しがた読んでいたエピソードを、あるいは次に読むエピソードに大きな影を落としていくのです。  最終的に問われているのはまさしく読者だったのではないだろうか?登場人物に投影されて読み進めていく読者の心理は(そう読まされてしまう魔法がある)、私たち自身の生き方を見直さてくれます。  クライマックスに近づくにつれ、それは顕著だった気がします。あれほど大きな信仰と愛を示していたますみは、結局かなたという弟なくして成り立たない。これは、私たちは結局のところ、自分の短い手足が届く範囲でしか人生を成し得ないことをこと示唆していたのではないだろうか。そして、私たちはそれすら出来ていないのでは?  ともかくも面白い、夢中にさせてくれる作品でした。そして、これは二度読んでも面白いでしょう。さらに、時を経てもなお新しい発見をもたらしてくれそうです。  そんな予感を与えてくれる、物語という作品にとって、もっとも重要なファクターがあるのは間違いないと思いました。
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一か所訂正させてください。「神の愛という信仰と愛を欲する」ではなくて、「神の愛という信仰と愛に正しくあろうとする」です。 ごめんなさい。

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