昭島瑛子

2周目でコロッケの優しさに胸打たれる
本作を初めて読んだとき、読了ペコメも残せないほどいろいろな思いでいっぱいになりました。この思いを整理しようと2周目に突入しました。 冒頭、コンビニ店員のダイがまだ何も注文していないアユムにいつもの煙草とコロッケを用意するシーン。 すでに一度最後まで読んでいる私はここで「うわ〜、そうか、コロッケ!」となりました。 かつて強盗に襲われたダイにコロッケバーガーを差し出してきた優しい女性。 その女性にコンビニ店員と客という立場で再会して、命の恩人である女性がコロッケを注文した瞬間のダイの気持ちを考えたら胸がいっぱいになりました。 作品の1行目である「猫がいなくなった」という一文も2周目なら「逃げた男」であることがわかるのですが、決して誠実ではないであろう男たちを「何匹ものドラ猫」と表現するのが、アユムの寂しさと諦めを表現しているように思いました。 アユムもダイもお互いに「嘘」がありますが、その嘘を知ってから2周目を読むとより一層二人の心の奥に思いを馳せられます。 それと、ものすごく細かいポイントですが、「桜が散る頃、ダイは23歳になり、蝉が鳴く頃、私は29歳になった」というとても短い文章で季節の移り変わりと時間の経過、二人の年齢差を表す一文にうなりました。
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