作者独自の世界
 この作品を一言で言い表すことは難しく、また簡単に解釈すべきではあるまい。  だが敢えて私がこの作品に対して抱いたイメージを一言で申し上げるなら「混沌」という言葉に集約されるのではないかと考える。  この不可思議な世界が、作者の綿密な計算の下、組み立てられていることは言うまでもない。  現代社会を具現化する狂気と憎悪、退廃、絶望、狂気、諦観……それらが混じり合って大きな渦を巻きながら読者に迫ってきて、最後に私たちはこの世界に、未解決のまま放り出されている。  この物語に結末をつけるのは読者自身である。  我々ひとりひとりが、現実の社会に於いてどのような状況下にあるかで、結末はそれぞれ違ったものとなってくるだろう。  だがどのような結末を辿ったにせよ、作者の作り出した一種独特の世界は、いつまでも読者の記憶から離れることはあるまい。  作者の優れた力量を示すものと確信して止まない。
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