台上ありん

現代の神話
神話や宗教の経典は、まず最初に世界が作られる様子が描かれるものが多い。聖書の創世記しかり、古事記の天地開闢及び国産み神産みしかり。 「なぜ世界(もしくは宇宙)は存在するのか」という問いは、全ての原初となっている。 現在の物理学は、ビッグバン理論及びインフレーション理論で我々の生きるこの宇宙の発生を説明をしているが、それらは「ビッグバンはなぜ起こったか」ということ自体は解明はしない。 一方、「シミュレーション仮説」というものもある。これは、「我々の宇宙は、我々より高次に生きる存在が作ったコンピュータのなかのシミュレーションに過ぎない」という仮説である。つまり私たちは、たとえばゲームのRPGの登場人物みたいなもの、ということになる。 もちろんこの荒唐無稽な仮説は、真であるとも偽であるとも断定はできず、そもそも検証するすべもない。 しかしもしこの仮説が正しいとするならば、その高次の存在は、いわゆる「神」と呼ばれることになるのだろう。 この文章を読んでくださっている方には、小説などの創作をやっている人が多いと想像するが、物語の創作とは一種の新たな平行世界の創作とも言える。 創作者は物語のなかで、登場人物の生殺与奪をほしいままにできるし、物語そのものを途中で打ち切ることもできる。そして、物語そのものを消し去ることも。 創作者は、世界を創造した「神」となる。 本作品は、神と戦った若者たちの戦記であり、新たな宇宙を自らの手で作り上げた現代の神話である。 謎が重層的に積み重なりながら、広大で深遠なスケールに展開していくストーリーは圧巻。登場人物は個性的である一方で、リアルさを伴う平凡な面もあり、魅力的。「無」に侵食される絶望感は、どんなホラーよりも怖ろしい。 結末では、新たな世界で、アダムとイヴもしくはイザナギとイザナミのような存在となった二人が、まるで何事もなかったかのように平和な日常を生きることになる。 おそらくこの新しい世界には、「神」は必要ないのであろう。
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このたびは過分な感想を頂戴しまして、ありがとうございました。 台上さんに読まれていると思うだけで、身の縮む思いがしてました。それほどレベルが上の方です。荒唐無稽が過ぎて、中盤あたりで読者数がダウンした作品でしたが、読了していただいただけでも感激です。これからも勉強させていただきます。よろしくお願いします。
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