渋宮暢

つらい。くるしい。それでも生きていく。
ジェンダー問題に切り込んだ作品、と思わせておいて、世の中の「生きづらい人々」の苦しみを描いたものだと感じました。 偏見、嘲り、暴力、迫害。日常に潜む数多に日々苦しめられながら生きる「生きづらい人々」は、この物語に強く共感するのではないかと思います。 ざっくりの構成としては前半の「女性の(ような)身体を手に入れ、治験の仲間たちと出会い、主人公が自身の悩みの根幹へと近づいていくパート」、後半の「厳しい現実に打ちのめされながらも前を向くパート」に分かれていると思います。 前半こそ、近しい悩みを持つ仲間たちとお互いの悩みを打ち明けながら前へ前へと順調に進んでいきますが、後半からは雲行きが怪しくなってきます。 不穏の始まりは海のパート。主人公に許されざる行いをする少年が登場しますが、少年もまた、偏見と迫害に心を傷付けられた人物であったように思えます。「社会が自分自身を見てくれない」という苦しみに関しては、主人公のそれと近しいものであり、朝顔、シュシュに続き、「苦しみを抱えた人物」であることが伺えます。二人との違いは主人公を害するものとして現れたことでしょうか。違った再会があれば、苦しみを共有する仲間として、主人公と意気投合する未来も望めたのではないかと思えます。惜しむべくは彼が既に歪んでしまっており、暴力に訴える思考しか持ち得なかったことでしょうか。 特に苦しいのは、元の日常に戻るパートです。クラスメイト、家族、教師。ただ生活している人々にとっては無自覚であろう「何気ない一言」が主人公を追い詰めていく。いえ、元々追い詰められていたのでしょう。だからこそ、主人公は新宮医師の下を訪れた。正直、家族が敵なのはめちゃくちゃ辛い。 この物語の肝の部分は、救われる物語ではないということ。作中で描写される限りでは、ある程度思うがままに生きられているのはシュシュくらいのもので、ある程度の答えを見つけたにせよ、主人公や朝顔は未だ苦しみの最中にあります。 そう。これは決意までの物語です。苦しみの最中にあった主人公たちが、厳しい現実の中にあっても自分らしく生きるという決意を固めるまでがこの物語なのです。 あくまで全編を通して序章。かすみたちの人生は、これからが本番となるのでしょう。生きる先には更に多くの困難が待ち受けているでしょうが、どうか強く生きてくれ、と願わずにはいられません。
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しぶにゃん、感想ありがとうございます✨ 主人公たちの辛さと苦しさをわかってくれて、私もとっても嬉しいです。 物語の始まる前や終った後のことも読みとってもらえて、さすがしぶにゃんだと思いました。 最後まで読んでくれて本当にありがとうございました!
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