雪乃かぜ

ある種の幸せな関係性
雨の日には空き巣被害が増加するらしい。ざらざらとした雨音が窓ガラスを割る音をかき消してくれるからだ。泥棒にとっては、まさに濡れ手に粟。わざと雨の日を待って犯行におよぶケースも少なくないという。本作も、雨の日を狙ったある泥棒の犯行を題材としている。泥棒の気持ちなど知る由もないが、狙った獲物を誰にも気づかれることもなく盗むことができれば、それはそれである種の高揚感があるだろう。まさにそれは、至福の瞬間に違いない。しかし盗まれた側もまた、いつまでもなにかを盗まれたことに気づかなければ、それはそれで幸せなのかもしれない。盗む側と盗まれる側。双方が不幸にならなければ、世の中案外、上手くいくものなのかもしれない。どちらもが哀しい思いをしないのであれば、それはひとつの美しい関係性なのかもしれない。 話は逸れますが……。 「隼人が言う。ね、と私は相槌を打つ。」の一文に雪乃は惚れました。表現力もあり、端的にふたりの関係性が分かる。素晴らしい一文でした。

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