倉橋

うつろいの澁谷文学
 ここ最近、澁谷氏の文学に一定の傾向が現れてきていることは、多くの読者が感じておられるかとは思う。  そしてまた最近の澁谷氏は、「私」という一人称の主観で描かれた独白の形式で物語を紡ぐ、「詩小説」ともいうべきジャンルに専念しておられることは、すでにお気づきの方もあろう。  そして最近では、敢えて小説の基本ルールである5WHをも凌駕した独特の世界を構築しようとしている感すらある。  私はこれを、澁谷氏の「うつろいの文学」と呼んでいる。  主人公は誰なのか?  男なのか女なのか?  年齢は?  現在の生活環境は?  そうした情報を殆ど読者に与えず、澁谷氏特有の優しく柔らかく、時にけだるい表現で物語は進んでいく。  澁谷氏は時に立ち止まり、時に逡巡し、読者の困惑を艶やかに楽しんでいる余裕と悪戯な微笑みを浮かべる。  読者は、何が起きるのか分からないある種の不安と期待にさいなまれながら、澁谷氏に誘導され、手探りで作品世界を進んでいく。  澁谷氏が果たして正しい方向に導いてくれるのか?それとも奈落の底か?  それは物語の「fin」の間際まで分からない。  簡単に説明すると、最近の澁谷氏の作品は、掴みどころのない最低限の情報を読者に与えて出発し、小出しに情報を与えながら、作品のテーマ、ストーリーを最後の数行で明らかにする独特の形式に貫かれている。  表題で「うつろいの文学」と名付けたのはそのためである。  この独自の形式の文学をどう評価すべきか、評論家でもなく学位もない私には、澁谷文学を適切に表現する言葉も理論も持ち合わせていない。  ただ私は、この作品世界に、翻弄される永遠の時間に魅力を感じている。  それは短く洗練された言葉で構築された最上のファンタジーといえるかもしれない。  今回の作品も、不思議な味わいと優しさ、押しつけではない教訓が散りばめられた魅惑の作品として楽しませて頂いた。
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倉橋さま✨ ありがとうございます_(._.)_…✨ なんという重厚かつ精緻な美文でしょうか…♪ 文章とはこのように書くものなのね…☆ 倉橋さまという読者様を得られたことが、私のエブカツ最大の幸運だったと言わざるを得ません…✨ いつも本当に…サークルK&Thanksにございます…☆彡
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