青のキカ

「私が人間であったならば」
借金、上司からのパワハラ、親からの虐待、友人や恋人の裏切りなど、大きな不幸に見舞われたわけではなく、ただ「生きていく理由がない」という理由で自殺を選んだ此下の心情がリアルだと思いました。 大きな不幸がない代わりに、生きていく気力を保たせてくれるほどの幸福もない。もともとあった僅かな幸福の貯蓄も底を尽き、この先特別良いことがあるとも思えない。生きていくメリットが、ない。 実際、そういった理由で死を選ぶ人も少なくないのだろうと思わされました。 アルコールの摂取を注意するイアに対し、息をするように嘘をついた此下。自分を心配してくれるイアを騙す罪悪感よりも、死にたい気持ちが優っているのだと感じ、胸が締め付けられました。 命をなくす直前、此下目線では「不思議と心地良い満足感に包まれていた」と描写されていたので、穏やかに逝けたのだろうか、それならばまだ救いがあると思っていたのですが、次の章で明らかになる死の間際の苦しみと、死後の悲惨な状況……。ショックでした。だけど、それがリアルだとも感じました。 一番好きなのは、イアが此下の死を認識できず、駄々をこねる子供のように又来を問い詰めるシーンです。なぜ自分に黙っていたのだ。なぜ騙した? どうして勝手にいなくなるんだ。これから私は一人でどうすればいい? そんな静かで切実な怒りを、イアから感じました。 最も残酷さを感じたのは、読者がイアに「人間味」を感じた直後に清掃員がイアの電源を切り、ゴミ箱へ放り込むところです。あっけない最期に、あくまでAIは、イアは、人間ではないのだ、だから此下も救えなかったのだ、と突き付けられた気がして……。 余韻が残る切ない終わり方や、バッドエンドが好きな自分にとっては忘れられない作品のうちの一つになりました。 この短い文字数の中、ここまでのストーリーを書き上げられる文章力や構成力、発想力に脱帽です。 冷たくも美しい物語をありがとうございました。
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青のキカさま、この度は拙作の閲覧と、素晴らしいレビューをお寄せくださりありがとうございました。 本作はジャンルはSFでありながら、内容は現代社会でも通じるリアルさを描いた作品だと思っています。実際に希死念慮に苛まれる人の多くは、そんな消極的な理由なのかもしれません… 個々のシーンの感想をいただけてとても嬉しいです。 本作は死を扱うからこそ、それを美化してはいけないと思って書いた作品でもありました。青のキカさまは本当に真っ直ぐに作品を受け取ってくださったのだと、素晴らしい読者様に読んでいただけた喜びを噛み締めています。 嬉しいお言葉の数々、大変光栄です。 改めまして、素晴らしいレビューをい
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