雪静

【諏訪邉桂①】  諏訪邉家の長男です。  奇特な経緯で誕生します。幼い頃からベビーシッターに育てられてきましたが、シッターは数年おきに入れ替わっていたので顔も名前もほとんど覚えていません。  子どもの頃、樹を抱っこする葵のもとへ行き「ママ」と声をかけたことがあります。しかし、葵がすぐに返事をしなかったので桂は走って逃げました。それ以来、彼が葵と目を合わせたことはありません。  孤独な環境で育った彼は、必然的に人間嫌いな皮肉屋になりました。小中高と友達らしい友達も持たず、ただただ父の跡を継ぐためにひたすら勉強に励みます。部活はずっと水泳部ですが、そこでも特に仲間を持つことはありませんでした。  基本的に周囲から浮いてはいましたが、桂がいじめに遭うことはありませんでした。『諏訪邉桂一郎の息子』という肩書は常に桂を守ってくれます。このレッテルを見せびらかすことで、桂は周囲から干渉されない心地よい居場所を作ってきました。  自分の経歴に箔をつけるため、桂は父の勧めでT大を受験します。正直桂の学力ではかなり厳しいラインでしたが、無理に無理を重ねた結果ぎりぎりの成績で合格します。  受験勉強に苦しむ頃、桂は街中で偶然樹と出会います。友人と歩いていた樹を見、桂はこれまでのストレスが大爆発したかのように面と向かって樹を罵ります。  樹が母を連れていなくなったせいで、自分が父の期待をすべて一人で背負う羽目になった。それは、樹にしてみたら言いがかり以外の何物でもなかったのですが、桂はずっと机に向かいながらこうした怨念を腹にため込んでいたのです。  当時、桂に対して何の感情も抱いていなかった樹は、ここで初めて「自分が桂を置いていった」という事実に気づき、深いショックを受けます。樹の傷ついた顔を見て、桂は思ったよりもスッキリしなかったことを不思議に思いながら、特に声をかけることもなく立ち去りました。
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