市井の人々の尊い人生の一頁
 この作品は、市井の人々のささやかな人生の物語である。  作者の一番得意なジャンルではないかと思う。  特に劇的な展開があるわけではない。  しかしここには、ひとりの人間の長く深い人生の中の一頁がある。  第三者から見れば、取るに足りない人生の一頁でも、その人にとってはいつまでも思い出の付箋を貼っておきたい頁。  喜びと哀しみ、笑いと涙、希望と諦め。  作者は付箋の貼られた頁を広げ、市井の人々の、決して忘れられない思い出を語っていく。  そこには、人生の真実がある。  それは川岸の石のようにかすかに輝き、永遠にその場に鎮座していることだろう。  そしてそれは、どんな宝石よりも美しい。  引き裂かれた愛。  愚劣な封建時代の名残である「家」という名の重く冷たい絆の下、己のことしか考えない、実は一番の「赤の他人」でしかない家族の思惑から、ふたりの愛は終わった。  多くの人々が、「家」という鉄の鎖を外そうとする。  鍵は自分の手の中にあるはずなのに……  結局外すことは出来ないまま、この作品に出てくる狡猾な笑いの母親と兄の下、鎖に繋がれたまま、かけがえのない人生を、荒野に埋没させていく。  人生の終着点が遠くに見えたとき、自己憐憫と共に思い出す、人生が輝いていた頃の一頁。  もうこの頁には戻れないことを改めて確かめながら、遠くを見つめて頁を閉じる。  その後に溢れ出る熱い涙。  この涙が……  この小説を読む読者にも伝わってきて、主人公と共に泣き、青い空を見上げていました。          
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倉橋さま。 今回も本編以上に深いご感想を頂きましてありがとうございました。 大変うれしいです。 大した出来事ではなくてもこの主人公のように小さな幸せ体験を大切にして生きている人がいてもいいかなと思いまして描きました。 ありがとうございました。
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