夜斗

切なく、そしてもろい。
晴れの日は自 殺が似合う。 きっとそれはあまりに空が美しいから、人はその美しさを目に焼き付けながら死 にたいのでないだろうか。 そんなことをふと、思うような冒頭。 主人公はそんな風に独白をはじめながらはっきりと「死んだりなんてできない」と断言します。 ここに、「あぁ」と嘆息せざるを得ない。 死 ねないとわかっていながら、それでも青空を見ることはやめない。 丁寧に洗濯物を干し、いつものように部屋の中へ入る。 冒頭1ページだけで漂う、彼女の世界に、物語の世界にぐっと引き込まれます。 とても緻密に描かれたリアルな描写もあいまって読者の眼前にも揺れる洗濯物と、カーテンを閉めるのも惜しいほどの青空が映る。 失う恋。 そうかいて、失恋。 何度もこの字面を見て、この言葉を作った人はなんて情緒をかいするひとなのだろう、と思います。 無くす恋でも無い。 忘れる恋でも無い。 ただ、失う。 失い、失われ、それは二度と戻ってくることは無い。 雨の日。 冒頭とは一転した雨の日に、彼はいつも優しい。 主人公を気遣うさりげなさに彼女はいつだって救われていた。 それを、今夢見るほどには。 青空を見て、胸を痛めるほどには。 人々が求める青空より、彼女にとっては雨の日が楽しみだったのかもしれません。 雨の日は彼が優しい。 雨の日にはたくさんの優しい思い出が詰まっている。 不思議なものです。大抵、人は思い出をその日の天気と覚えている。 回想するときには「あの日は、どんな天気だったっけ」と思い出す。 彼女の中の思い出は少し重たい頭と、優しくのせられた手のひらの暖かさ。 そして天井を打つ、雨音。 ずしんずしん、と脳内に重く響くような文章は彼女の夢と、そして夢とは違う現実を言葉の上に明らかにします。 いいよ、がどうでもいいよ、に。 同じような言葉で、いいよ、が入っているのにまったく違う言葉。 決定的なそれにまたあぁ、とならざるをえません。 あぁ、終わってしまう。 そんな終わりを感じさせる。 それでも彼女は、思いでのマグカップを、割れないように割れないように丁寧に包み込んでしまう。 この描写があるとないとでは大違いでしょう。 思わず涙が溢れて出てくる4ページ冒頭です。 彼の好きなもの、こと、洗濯物のたたみ方まで。 (続きます)
1件・1件
なのに、心はわからなかった。 この矛盾に丁寧な描写のおかげで、読者は膝から崩れ落ちるような衝撃を味わいます。 なんて、うまいのでしょう。 心情描写が淡々と続いているわけじゃ無い。 なのに、ひしひしと彼女の感情が 後悔と罪悪感が。 そして彼への愛が伝わる。 失った恋。 死 にたいと思いながら。 それでも彼女は笑ってドアを開ける。 心は死んでいく。 そんな風に彼女は最後を閉じるけれど、読者は滲む視界と共に思わざるを得ない。 どうか、彼女の心に水を与えてくれる存在が現れますように、と。 失った恋と、そして晴れた空。 とても鮮明な描写が秀逸な素敵な作品でした。 短い文章の中にち

/1ページ

1件