倉橋

蜜原ワールドとは何か?①
 蜜原氏の新作である。正直を申し上げると蜜原氏と未苑真哉氏の作品というのは非常に手強いのである。  おふたりとも同じ文学グループのメンバーということで親しい関係だと思うが、両氏の作品とも非常に手強く、読むときもレビューを書くときも正直、気が重くなってしまうのだが、その反面、どうしても読んで分析して解説したくなるという共通点があるのは興味深い。  蜜原氏は間違いなく文学畑の方である。純粋にエンターテイメント系の方ではない。  純粋にエンターテイメント系なら最初から最後までスラスラと、痒いところに手が届くように受け身で読むことが出来る。  だが蜜原氏の作品というのは行間がある。  それを読み取らないと「蜜原ワールド」を征服できないと思わせる奥深さがある。私はたいして読解力もないため、いつも時間切れで氏の作品の全てを読み取ることが出来ないまま、終了しなければならない。  今回の作品は前作に引き続き、人外(人間と動物のハーフ)が通う聖パルーシア学園の日常を描いたもので、今回は甘い百合シーンを交えつつ、ハロウィンでのちょっとしたアクシデントがメインストーリーとなっている。  人外自体は男性向けのラノベでよく使われているテーマであり、特に目新しいものではない。  また「百合」というのも男性向けのテーマである。  だがこれはラノベではないし、この作品に描かれる人外と人類が同居する世界というのは、作者による独特で難解な解釈が設定されており、この作品の世界観自体が普通のエンターテイメントを期待して読む読者にとっての非常に高いハードルとなっている。  この作品のストーリーというのは、実は作者独自の世界観の設定を開示していくことに終始しており、次々と登場する新たな設定に多くの読者は翻弄されるしかない。  ではこの作品は、「最後までストーリーが把握出来ない不可解極まりない小説」して記憶されるのかというと、それは全く違う。  この小説は滅法面白いのである。  作者が学術書からエンターテイメントまで豊富な読書量を誇ることはエッセーから明らかであるが、読者を楽しませるツボを心得ているというか、読者を巧妙に結末まで到着させる操作を会得しているというところだろう。  読み終えた読者は、作者の世界観というひとつの大きな山の頂上へ到着したような充実感を覚え、何かをやり切ったという満足感に浸るだろう。  
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