恋愛ミステリーとして優れた作品
 作者はミステリー色の強い恋愛小説を数多く発表し、エブリスタのコンテストで優れた実績も残しています。  この作品は学生たちに人気のある大学教授が何者かに殺害されるという刑事犯罪をテーマとしており、「恋愛ミステリー」とハッキリ呼んで差し支えないかと思います。  大学生のふたりがアルバイト先で出会った憧れの女性。殺害されたのは彼女の夫だった。  ここからが面白いのですが、主人公の大学生は憧れの女性と一定の距離をとり続けているのですが、友人の方は事件をきっかけに憧れの女性に積極的に近づいていきます。  友人に差をつけられたかたちの主人公ですが、結果的にはそのおかげで第三者的立場から、知らず知らず真相に近づいていきます。  この作品を「恋愛ミステリー」と呼ぶもうひとつの理由は、作品のテーマからです。  「恋愛」とは人間の普遍の感情です。  その恋愛感情によって事件が起こり、恋愛感情によって事件は解決していきます。  この独自の構成が読んでいて非常に魅力を感じたところで、よく考えれば陰惨な事件なのですが読後感が切なくも爽やかなのはそのためかと思います。  結末も「恋愛」で締め括られます。長い間、幾多の障壁に遮られながらも決して絶えることのなかったふたりの絆が実を結んで終わる場面には、最高に感動しました。主人公をはじめとす登場人物のキャラクターも非常に良かったと思います。  ミステリーに不可欠な驚くようなどんでん返しもあり、奥行きを感じるスケールの大きな作品だと心から賞賛するものです。  ミステリーに「恋愛」を持ち込むのは邪道とする意見は昔からありました。だがそんなことはない。  イギリスを代表する文学作家のフイルポッツは恋愛をキーポイントにした『赤毛のレドメイン家』を執筆しました。この作品はミステリー史上に残る傑作とされています。江戸川乱歩が『緑衣の鬼』のタイトルで翻案しています。  作者には是非、これからも、恋愛のもたらす様々な波乱を優れた小説に執筆して貰いたいと思っています。  この作品が多くの人に賞賛されることを心から信じています。  
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