小池正浩

 小説を読んでよかったってほんとうに心底実感することがあって、それは「この」小説と出会えてよかったっていう稀有で貴重な経験から生じた素直な感想そのまんまかもしれないし、小説を読んで「いて」よかったっていう継続に導かれた反復の偶発的な確証の積み重ねかもしれない、それこそ前回コメントしたように小説にかぎらず音楽でも美術でも映画でも表現されたもの、創作された何かであればジャンル問わず何でもいいわけで、おそらくそれは僕だけじゃなく誰でもそうなんでしょうけど、これ傑作じゃんと、途轍もない作品じゃんと、吃驚仰天、感慨無量、どんなふうにいっても自由ですがとにかく、おおげさにいうと人生が変わるような未知の新しい体験におもわず狂喜乱舞、感謝感激、心の底から感嘆し歓喜するのです。物語、わけても小説は僕にとってむかしからそうで、だから小説はおもしろい、だから小説を読むのをやめられないというか。それはだからできるだけ未知の、新しい、前人未到、前代未聞の創作(パフォーマンス)であればあるだけすばらしいし価値も高い、その可能性や確率に賭けるからこそ僕はコスパもタイパも度外視して、職業作家の商品やクラシカルな名作のみならず有象無象ミソクソいっしょくたな、書いたのが素人だろうがセミプロだろうが、文章や内容がスタンダードでも実験的でも、ほんとうに未知で新しいならどんな小説でも読みたいと願っているし、実際だから読んでいるんですね。  で、長らく積ん読してあった『おはしさま 連鎖する怪談』(三津田信三/薛西斯/夜透紫/瀟湘神/陳浩基)を今日まさに読了したとこなんですが、これ傑作じゃんと、こんな途轍もない作品がまともに評価されもせずベストセラー化してなくていいのとおもったわけです。挑戦的ではあってもとかく失敗作の多い企画もの、たんなる話題性をねらっただけのシェアードワールド的な流行りものに陥りがちな競作、しかもリレー形式の小説において、これほどまでに高度な達成、ミステリーとしてもホラーとしても成功している作品はなかなかないでしょう。いいの、こんなのが埋もれてても。いやごめんなさい、ほかの積ん読本といっしょに僕も埋没させてましたけど、でもたぶん世間でもいまだ話題にもならず埋もれたままですよね、むちゃくちゃもったいない。詳しく中身を説明するまでもない、断言しときます、いまあらためて。『おはしさま』は傑作です。
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