不都合ゆえに白日のもとにさらされる真相
 実際に医事課に勤務されている作者様が手がける、医事課の若手スタッフが主役の本格医療ミステリ。  病院が舞台のミステリだと、ドクターが前面に出てくるものが多いように思うが、事務方――しかも若い世代(ヤングアダルトって通じるのだろうか💦)が重要なポジションを担っている点が個人的に新鮮だった。  係によっては、お金の流れが直で見えたりするわけで、医療ミステリにぴったりな部署と言える。なのに、さしたる理由もなしに脇役に回されやすい理由は、業務の性質上、縁の下の力持ちなイメージが強いゆえだろうか?  きっかけは他愛のないうわさ話だった。納見慧一、鮎川思、出雲亜美、嶋野敏二らそれぞれが、世代特有のモヤモヤやら悩みやら痛みやらを抱えつつ、業務にいそしむ日々。そのうわさ話が、彼らの日常にわずかな刺激をもたらしたのかもしれない。彼らは謎を追求し始める。  そんな中、外部委託会社のスタッフ鮎川思は、うわさの信憑性につながる〝あること〟を目撃し、さらには、見過ごされてきた〝あること〟に気づく――  作者様の筆力がすばらしく、非現実的なうわさ話やごく小さな数字の変化、ちょっとした騒動などを次々組み込んで、不都合な真実へと拡大してゆく様を、じつにたくみに“押し隠して”描いていく。ミステリにさほど精通していない私でも、ページをめくるたびにワクワクドキドキし、最後まで楽しめる内容だった。  また、サイドディッシュ的に繰り広げられるそれぞれの恋愛話も、命を扱うがゆえに重くなりがちな医療ミステリに、いい意味でのライトさが加味されていると思う。  もちろん、ことの真相はやはりというべきなのか、上層部による組織的隠蔽工作で……  医事課若手スタッフによる独自調査は、鮎川思の途中離脱を経て、その後も進んでいく。だが真相に近づきかけたとき、〝招集者〟を名乗る第三者よって、医事課スタッフを含めた当事者全員が一同に会する形で真実が詳らかにされる。これがクリスティっぽくて面白い!〝招集者〟が誰なのか最後の最後まで判らないのもお見事!  非常に読み応えのあるミステリ作品に仕上がっているので、ぜひご一読を。
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