美縁

それからも見た夢を憶えている事はよくあった。 楽しい夢や幸せな夢を見た次の日に同じ夢を見ようと思えば見れたので、ゲームのリスタート感覚で見ていた時期もあった。 デジャブも良く起き、夢ではこうなった後にあの人にこう言われたなと考えていると本当に同じ言葉が返ってきて、一瞬返事に困る事もあった。 多重夢や明晰夢もよく見た。 特に明晰夢が多く、現実のように夢に没頭出来ることはそうそう無かった。しかし、ある夢だけは今でも毎回現実だと思わされる。 自分が死ぬ夢。 災害や事件に巻き込まれ死ぬのだが、それが嫌にリアルなのだ。いつもは自分が主人公なのだが、その夢には他に誰か別の主人公が居る。私はその周りの一人。自身が先を決めるのではなく物語に飲み込まれていく。そして死ぬ時も周りの人に気付かれず、それも物語のとても中途半端なところで、モブとして死んでいく。 死ぬ時の感覚も鮮明で、ある時は崖から落ち、頭を打ちつける痛みとグシャっと何かが潰れる音がした。それと同時に視界は真っ暗になるが気が遠くなる中で救急車の音が細く聞こえていた。またある時は津波に襲われ皆で救助を待っている時、私は手を滑らせ濁流に飲み込まれた。水の中の視界は悪く息苦しく冷たい。最期は一緒に流れていた鉄の棒が顔に直撃し死んでいった。 私が主人公の物語はなんと都合の良い夢だろう。 きっと実際はこの夢の様に何も出来ず、ただ静かに一人死んでいくのだろう。 どちらも私の創り出した物語だけれど、なんとなく、そう悟ってしまった。

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