吾妻栄子

https://estar.jp/novels/26148658 “雨が降ってきた。先に予約した店の近くに行ってるからゆっくり来て大丈夫だよ”  京劇の女形のアイコンは夕べの今頃に発信した言葉を最後に何の反応も示していない。  生暖かい風が半袖から抜き出た腕を撫でるようにして通り過ぎる。寒くもないのに肌が粟立つのを覚えた。  ミオ、何でこんな写真をアイコンにしてんだろう。  本当にこの俳優さんのファンなら素顔の写真にすればいいじゃないか。  こんな昔の芝居のベットリ白粉《おしろい》塗って目張《めば》り入れた化粧すれば誰でも同じような顔になるだろ。  それとも、素顔になれば結局、彼も男だからそちらは目にしたくないのか。 ――取り残された陽希の孤独。
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