武田ゆい

武器、とは
 「武器」という言葉には、戦闘時に使用する物理的道具のほかに、人や組織が備えている長所のことも指します。例えば、「彼の武器はコミュニケーション力だ」「このチームの武器は正確かつ綿密なパス回しだ」といった使い方です。それは、先天的に備わっていることもあるだろうし、成長によって後天的に獲得していくケースもあるでしょう。  この『武器術』というタイトルの「武器」とは、前者からとられたものであるのは明確です。刀、剣、矢、盾など、古今東西の実戦で使用された武器が登場し、読者を魅了する――それがこの作品の見かけの「武器」ですが、同時に、物語の面は後者の意味での「武器」を獲得していく話だと言えるでしょう。主人公になりたいと思う駈、社会での女性の地位向上を目指すゆめ。彼らはVReスポーツのバトルを通して、あるいはチーム内の人間関係を通して、自分の能力は何なのか、自分には何か足りないのか、そして足りないものを獲得していくにはどうすればいいのか、すなわち「自分と、自分たちの武器」を追求していきます。  VReスポーツの試合は迫真的です。ダメージを受けると鮮血が噴き出るし、致命傷は死に至ります。残酷な行為も見られ、中学生がプレイするには過激すぎるようにも思えます。しかしながら、その迫真性はプレーヤーの「本気」を引き出します。生きるか死ぬか、その局面に立つことで彼らは自分自身の武器とは何かという問いに本気で向き合います。それは主人公になるために、社会を変えるために必要な通過儀礼だと言えるでしょう。  さて、物語の序盤のみ、特徴的な表現がしばしば登場するのに気が付きます。それは動物の比喩です。例えば「ガゼルを思わせる俊敏な足どり」「豚の鳴き声を思わせる珍奇な声」「セイウチを思わせる重たげな体」といった具合です。こうした動物の比喩は個性を強調します。彼ら彼女らは動物的な個性の持ち主なのです。しかし、主人公の駈はこうした比喩をされていません。果たして、駈はVReスポーツを通し、どのような「武器」を手に入れ、そしてどのような動物のような存在になっていくのでしょうか。彼が何かの存在になった時が、この物語の完結なのだろうと思います。
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