“Rue Delambre Courtyard in Snow”『ドランブル街の中庭、雪の印象』という、藤田嗣治の絵が好きで。まだ例の「乳白色」も確立してない1918年頃のパリ周辺の景色を切りとった小品といった感じの、どちらかというと習作に近い地味な風景画にすぎないのですが、一目見て惚れましたね。椹木野衣の美術批評で『アッツ島玉砕』を知って以来フジタのファンで、画集などに掲載された写真ではなく、いつかは本物をじかに見たい見たいとおもってたというのもあって、もう五年以上も前ですけど2018年に京都国立美術館で回顧展が開かれていた際ふらっと鑑賞しに行ったわけです。偶然、駅の冊子か電車の中吊り広告かでおっ藤田嗣治やってんじゃんと、で何の予備知識というよりかは事前情報かな、はもたずに訪れてまあ驚嘆しました。衝撃、感激、その他もろもろ、いろいろとね、心動かされたというか強烈に味わい深かったというか、メチャクチャ最高でした。まさかまさか『アッツ島』まで展示されているとは。いわゆる戦争画は、どうしてもあれこれ何かと問題視されがちで、意外と一般には知られてないし評価も定まってない。なので実物が公にされることもごくごく少ない。僕の持論では『アッツ島玉砕』は、画家本人の私的な動機や軍指導の国策という目論見も経緯も超え、結果として戦争を肯定も否定もせず戦争の実相を的確にとらえ、先鋭的に描きだした迫真の作品にほかならない、だから巨大なキャンヴァスをいざ眼前にしたとき、凄まじいその想像力と画力の鬼気迫る表現に圧倒され、全身の細胞すべて感覚すべてが震えました。それとはべつに、順に回って観てたなかでも、『ドランブル街の中庭、雪の印象』がとくに気になったし気に入っちゃって。個人所蔵なのでそれまで僕のもってた画集とかでは見かけなかったし、またこれからも眼にする機会はなかなかないんでしょうけど、ほんとうに地味な小品ながら不思議と味わい深く忘れがたい絵でした。油彩に特有のあの、油絵の具の濃い色合いとか、塗り重ねた層の生々しい厚みとか、何といったらいいのか、視覚以外も触発される四次元的な物質感とでもいうか。あの感じ、あの感動はきっと現場でじゃないと味わえない。実際あとで目録の画像で確認しても、ぜんぜんちがう何かちがうなあと。解像度のちがいにもよるにせよ、まさしくリアルにまさるものはなしってことですかね。
小池正浩