秋月晶

共鳴必至の珠玉作!
『賭博雷同』に寄せて、初めて感想を記します。 ※多くを書きたいので、丁寧語は廃していきます。 この作品は、賭博を主軸に置いているが、人生というもの、人間の弱さや脆さ、義理人情や誠意のあり方など、人のこころに踏み込む強さが印象的だった。  起承転結全てに及び、読者を掴む握力もまた、真実の才を感じられ、仮にこれが埋もれてしまうならば、極上のエンタメを放棄しているとさえ、私は思う。 主人公オミオミは、ひょんなコトから賭博の道に入り込む。 そして出会う人たち、あるいは彼のプライベートに絡む女の子の存在。 登場人物は多くないが、だからこそ一人ひとりへのスポットが強烈で、それぞれが生彩を放っている。 特にWヒロインたる喜美候部とサラシナは、まったく逆の性質でありながら、本質の深い部分は同じで、どちらも純粋がため、色の変化も見どころだ。 この二人を喩えれば、同じ源泉から異なる川が生まれるように、またそれが複雑な曲線で沫きながら流れるように描かれている。 ライトノベルで描かれるコトのない、生々しいリアルを背負った二人は、万人受けしないだろう。 でも、これが女子のリアルであると言わんばかりのキャラ造形は、創作物と言うよりもノンフィクションに近いかもしれない。 そもそも今作自体が、作者である出雲黄昏さんの体験記の様相を帯びているため、現実と虚構が接合した無二の作品と言える。 人が脆くなってしまったときに陥る中毒や依存を、黄昏さんは否定していない。 むしろそれが人なのだと共感し、今の歪な社会をこそ否定している。 ギャンブル依存症の主人公は、誰よりも弱さを感じる嗅覚に優れ、その共感力をもってして、周囲を引き込んでいく。 崇高な文学であり、刺激的なエンタメであり、ノンフィクションでもあるこの作品が、黄昏さんに都合良く書かれたものでないコトはすぐに分かるだろう。 圧がある。 握力がある。 それでいて引き込まれる。 すべての部品を操り、嵌め込み、完全なドラマを組み上げた。 気軽に読める軽い作品ではないのに、気軽に読める扉が開いている。 ページを繰る手が止まらない、と言うのは容易いが、この作品の隙のなさ、それでいて個人の思考が挿める絶妙な余白は、一気に読了まで連れて行く力がある。 危険な作品だ。 でも、売れる作品だ。 素晴らしい小説に出会えた感謝を捧げ、広く読まれるコトを願ってやまない。
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秋月さん、ありがとうございます。 本作の見どころがすべてここに、余すことなく記されています。 題材が題材なだけに読者を選ぶし、危険な作品。 読解力と正しい倫理観がなければ、悪魔の蜜に絡めとられてしまう。 読み手が試されてしまう作品なだけに、本作の感想を寄せていただいた秋月さんに心から敬意を表します。 ごめんなさい。これ以上ここで僕から語る言葉が見つからない。学校の先生が、秀逸な読書感想文を目にした時の、ある種自分の才能に対する絶望感すら感じ得るほどの気持ちがわかるくらいに。 それだけこの感想は、本作の核を示している。 本当にありがとう。 何度も、何度も大切に読み返します。
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