吉田安寿

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 主人公であるジャックの心情が繊細かつ的確に描写されており、一貫してとても丁寧に書かれているなぁ、と感じました。  特に感銘を受けたのは、両親の離婚について知らされ、多感なティーンエイジャーらしく泣き叫びたいような衝動に駆られる幼い自分を、もうひとりの大人になりかけた自分が冷静に諫め、諦め、納得させる場面です。この心情の対比と移り変わりは、ジャックというキャラクターを自分のことのように理解してなければ書けない複雑さと厄介さがあります。「私は一晩葛藤した」程度のおざなりな描写でやり過ごすこともできたでしょう。しかし、この葛藤こそがその後の生き方を決定付ける大切な日であり、ジャックから目をそらさず、真摯に向き合った作者様の書き手魂に敬服いたしました。  さて、物語はジャックの語り口調で進みますが、それがまた良いですね。 彼の上品で理知的な性格がよく伝わってきますし、お話全体に穏やかで柔らかい雰囲気が加味されています。タイトルのとおり懐旧しながら、もうどうすることもできない過去の出来事について、微苦笑しながら思いを馳せる彼の横顔が見えるようです。個人的にはスティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』を彷彿といたしました。  また、ジャックとフランがお互いを大切に思うあまりにすれ違ってしまった点は、O・ヘンリーの『賢者の贈り物』のようです。失った長い年月を思うと切ないのですが、再び交わることのできた二人の人生に胸が熱くなりました。  気になった点は、ジャックがフランに渡した箱についてです。ラストで突然出てきた感じがしましたので、冒頭部分でその存在とフランに渡したことだけは、ほんのちょっぴり触れておいても良いのではないかな? と思いました。 文章に関しては、一人称ゆえか「~ました。~でした」と文の結びで同じ音が続いている箇所があり、リズムが少し単調に感じるところがありました。 それと、間違いではないと思うのですが、鍵括弧でのセリフでは、文末の句点はつけないのが一般的かと思います。あとは表紙がないのが残念。表紙は物語への扉ですので、読者の興味をひくためにも、簡単表紙メーカーなどで作ってみられてはいかがでしょうか。  とても普遍的で、心温まる素敵なお話でした。是非たくさんの方に読んでいただきたい作品です。 ありがとうございました!

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