けいたん

時々、僕は……透明になっても消えないもの。
消えてしまいたいと思うことがある。 いわゆる青春という時期、黒歴史とも呼ぶ『恥ずかしい出来事』が次々起きる。 よい思い出に昇華したりすることもあるが、大抵は夜中に思い出して眠れなくなるほどの羞恥が突然、生々しく蘇る。 そして思う……思い出もろともに消えてしまいたいと。 この作品には『透明化』できる少年少女が登場する。 主人公・鈴木君の透明化は初めはセーブができずに苦労したりしていて、『姿が消えたところで黒歴史は消えない』と、なるのだろうか……などと、いらぬ深掘りをしているうちに、鈴木君は透明化のスキルを磨き、友達を助け正義の味方……かっこよく成長していた。 作者の小原氏の得意技だ。 地味で目立たない主人公が成長していく姿を、私たち読者にすら気付かせない周到な展開。  あっと思ったときには、鈴木君も、周囲の美少女たちも、『大人』になっている。 読者を驚かせ、先を予想させない。  これこそ小説のあるべき姿だ。 結論が分かってて読むことが昨今増えていて、私たちはそれに慣れつつある。 そのほうが安心だからだ。 ハッピーエンドだと分かってて読むほうが心が揺れたりざわついたりせず、お腹が膨れたらいいやという……これはまずい、読み手の堕落なのか、良作に巡り合うための努力が足りてないのか。 この作品は、私に読書の楽しさを存分にくれる。  何回読んでもおもしろい。 それは小原氏の視点が秀逸だからだ……と、ひとまず結論を述べておく。 ここからは、私の推し加藤さんについて。 私は加藤さんが好きだった。 ヒロイン枠ではなく、モブ枠といってもよい。 しかし鈴木君はというと、主人公だ。 本人が影が薄いとか言ってても、この作品内ではヒーローなのだ。 その鈴木君が選ぶのは、どの美少女なのか……最後まで読者を引きつけた大きな謎だった。 エンディングの尊さ、美しさ……ここは語るのを控えようと思う。 読者の皆さん、各々、感じるところがあるだろうし、小原氏のファンの方々が愛してやまない『情緒あふれる景色の中で主人公が幸せを語る』シーンを『お腹いっぱい』に堪能して、私は今、幸せだ。 小原氏の作品からしか得られない栄養を存分に摂取できた。 エネルギーチャージもできたことであるし、心ゆくまで、満足するまで読み尽くそう。 けいたん
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