秋月 晶

許容という教育の偉大さ。
『バーバーアカバ』に寄せて、レビューを記します。 ※多くのコトを書きたいので、ですますの丁寧語は廃していきます。 高校における頭髪検査・服装検査と聞いて、現代の若者が思い浮かべるものと言えば、厳格な生徒会によるアニメ世界の話だろう。 個性や自由がすなわち全て正しいとは言えないが、そこに最大限の配慮をし、生徒の髪型や服装に指導できなくなったのは、1989年、愛知県において、教諭が生徒の髪を切った事例に始まり、複数件の学校側と生徒側(概ね保護者)との係争、または時代の流れもあり、システムが化石化していったものと認識されている。 頭髪検査の本来の趣旨の一つには、シラミ予防や健康確認の意味合いもあった。 今では古めかしいシステムだが、紐解いてみれば、学校側による生徒管理は、抑圧支配を是とするものでなく、むしろ保護する目的だったとも言える。 本作『バーバーアカバ』を読むにあたり、これは昭和的な抑圧を書いたものではないと添えておきたい。 本作は、赤葉和子という教諭を主人公とした短編小説だ。 直接書いてはいないが、生徒の就職率の高さからして、工業系・商業系の高校が舞台と思われる。 物語は、GW明け、生徒の頭髪検査を行い、そこで若干問題のある小林という生徒とのやりとり、彼の担任の山木教諭、赤葉教諭の対応が軸となる。 主人公・赤葉和子は、生徒との距離感が近く、堅苦しさを嫌う柔らかな印象のキャラクターで、この人物像は、作者・赤葉小緑さんの個性を多く反映させたものだろう。 生徒への干渉をどこまでするかという問題は、その効果効用(効用論)と、どこまで認めるか(裁量論)の狭間で、今も現場の先生方を悩ませている。 本作の対極的な教諭である厳格な山木先生と、気取らない赤葉先生は、まさに効用論と裁量論をそれぞれに体現し、その中心点に小林くんを置くことで、もっとも幼い子どもたる生徒が、青春時代の自由と社会の厳しさを感じながら、彼なりに生きているさまが感じられるはずだ。 歌手・長渕剛はこう言った。 『僕が若い頃は「こういうことをいってくれる人がいて良かった」という大人がいましたが、今の若い人たちに本当のことを言ってくれる大人がいない。』 本作『バーバーアカバ』は先生方の葛藤と生徒の若さの葛藤を、現場から描いた作品だ。 読者が感じる是非の中にそれを見出せば、掘り当てられる宝物があるかもしれない。
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秋月晶様 拙作『バーバーアカバ』に、貴重なレビューを書いていただき、ありがとうございます。 また、秋月さんからいただけたという事、大変うれしく思います。 30年程前の実業系高校。今では、おそらく大炎上するような生徒指導が、多々あった時代のお話です。掌編ですが、細かい視点と分析をふまえつつ、生徒や教員の思いを表現していただき、ありがたく思います。 このレビューを大切にして、今後も文筆修行に励みたいと思います! 本当にありがとうございました。                          赤葉小緑
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