秋月 晶

王道の青春友情ファンタジー。
『お宝ハンター桃! 守れ!鬼ヶ島の財宝!』に寄せて、レビューを記します。 ※多くのコトを書きたいので、ですますの丁寧語は廃していきます。 日本一有名な物語と言えば、多くの人はおそらく『桃太郎』か『源氏物語』を挙げると思う。 だが、後者は物語性の高い長編であり、貴族社会そのものに興味を持っていないと、登場人物の多さや難解な背景により、細部まで把握しきれないのではないだろうか。 その点『桃太郎』は、極めて図式が明確で、登場人物も少なく、その物語に至る背景やその真実を知らずとも、日本人なら大概はストーリーを説明できるだろう。 本来の概要としては、吉備津彦命が温羅という鬼を倒した伝説が原型だが、昔話の多くは室町から江戸時代にかけて作られており、勧善懲悪をある種の教育素材として扱っていた。 本作『お宝ハンター桃!』も、作者・赤葉小緑さんが桃太郎伝説を引き継ぎながら、本来の勧善懲悪作品を青春ファンタジーとして仕上げたものである。 主人公・吉備津桃子は、桃太郎の子孫であり、西讃岐山高校に通う女子高生。 その桃子は、鬼の末裔たる小鬼菊子と出会い、助けを求められる。 今現在も鬼ヶ島に住まう鬼たちの財宝が、天地人虚無大師という魔物に狙われているため、桃太郎の子孫に救援要請をするところから物語は動き出す。 当の桃子は、このとき桃太郎の力が覚醒してはいなかった。 しかし、有名な『犬、猿、雉』の能力をもつ仲間とともに、桃太郎としてもチームリーダーとしても成長していく。 過分に青春小説であり、そこに強くファンタジーを嵌め込んだエンタメ作品でもある。 本作は軸に勧善懲悪を置いていながら、友情や絆、勇気や誠心といった児童文学の色味も濃く、さながらテレビアニメを楽しむような気軽さで読み進められる。 また、そのように読んでほしいと感じられるポップな筆致も、作品の扉を開けやすくしている。 それでありながら、歴史上の人物説明、描写、戦闘場面における軍略、緊迫感は、精通者であるがゆえだとすぐに分かるだろう。 ドイツの詩人・シラーは、 『友情は喜びを二倍にし、悲しみを半分にする』 と説いた。 本作『お宝ハンター桃!』のラストシーンにおける友情の在り方は、純金の輝きを伴い、読者の胸に残るはずだ。 これは、若き友情の良きも悪きも見つめてきた赤葉小緑さんの人生が反映された、ストレートな物語なのかもしれない。
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秋月さん、過分なレビューを書いていただきありがとうございます。 勧善懲悪の単純なストーリーの中に、青春や友情、古きアニメ活劇の世界など様々なモチーフを混ぜ込んだ物語。感じ取っていただき嬉しく思います。また、私の拙い物語に込めた思いや背景なども、秋月さんの言葉としての的確な表現に、頭の下がる思いです。今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
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