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【完結】雨の中の女の子
秋月 晶
2024/10/21 13:26
焦げついた記憶を打ち砕く正拳。
『雨の中の女の子』に寄せて、レビューを記します。 ※多くのコトを書きたいので、ですますの丁寧語は廃していきます。 あらゆる場面で『人は性善説か、性悪説か』という議論が展開され、現代、個人の主張は、主に酒席やインターネット等で語られている。 そのどちらに対して私がこの場で述べることはないが、本作『雨の中の女の子』を読んで思うのは、すべて『記憶』によるものではないか、ということだ。 記憶とは、記銘(覚える)、保持(貯蔵)、想起(思い出す)の三本柱で構築される総称であり、基本的に、優先度の高いものは強く記憶され、その逆は忘れられるようになっている。 そして『優先』というポジティブなニュアンスの言葉の裏側に、『悲惨かつ残酷な記憶』も、さながら進行形のように鮮烈な優先さで焼きついてしまう意味合いがあることを忘れてはならない。 『雨の中の女の子』は、特にこちら側に強く焦点を当てた作品であり、人間の根源的部分を挑戦的に描いた作品でもある。 主人公・御堂水月は、死して蘇生した不老の少女だ。 あまりに惨く殺され、その後の生き様にも、喜色は殆どない。また、とある事情により闘いの中に身を投じていく。すでにこの時点で、ライトノベル的ファンタジーを予感するだけの要素は揃っている。 しかし、作者である西海斗さんは、少年少女が思い描く美少女戦闘ファンタジーを冒頭ですでに切り裂き、『人間とは』『男とは』『女とは』『尊厳とは』『性被害とは』と、一撃の重い正拳突きをこれでもかと撃ち込んでくる。 西海斗さんはおそらく、性被害の有無に関わらず、女性に対して誠実な敬意を持つ性質なんだろう。 作中用語である『リターナー』や『異能力』は、作品の進行上で欠かせないが、本質はその深部にあり、こと性被害については、作品の根幹とも受け取れる高い識見のもと、被害者に心底から寄り添う姿勢を見せている。 先にも述べたように、この作品は挑戦的だ。 現代人が好む男女平等よりも、歴史を学び、知るからこその男女差を明確にしている。 読者に媚びず真理を描くさまは孤高にして秀麗である。 『どんなふうに記憶し、何を記憶し、なぜ記憶しているかによって、各個人の心の地図が作られる』と、作家のC・ボールドウィンは言った。 性善説も性悪説も記憶による心の地図だとすれば、『雨の中の女の子』はその標となれる傑作だ。
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西 海斗
10/21 22:33
秋月晶さん この度はこの物語を読み直して頂き、重厚かつ圧倒される感想まで頂き、本当にありがとうございました。 そうですね、挑戦的という表現がまさに的確だと思います。 主人公の水月は、女子高生であるものの、一般の商業作品にみられる様な可愛らしさとは縁遠く、魔法少女のような魔法ではなく、文字通り拳や手刀で、恨みや悲しみを叩きつけていきます。 私は男性ですが、性被害の事を調べていくうちに、男性だからこそ、こういう話を書こうと思ったんです。 女性で性被害の話をテーマに書く人は多い。でも男性はほとんどいない。それなら自分がまず初めに書こうと。 仰る通りで、この物語は昨今に見られる様な
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