秋月 晶

誘惑を払いのける強さを知る。
『試験問題』に寄せて、レビューを記します。 ※多くのコトを書きたいので、ですますの丁寧語は廃していきます。 年齢性別を問わず、人間は日々誘惑に直面する。 人が思う以上に、甘くて魅力的な誘惑は多いものだ。 中世の思想家トマス・ア・ケンピスは、著書の中で次のように説いた。 『火は鉄を試し、誘惑は正しき人を試す。』 本作『試験問題』は、まさしく可能性に満ちた鉄を試し、若く正しき人を試す運命の一冊を描いた作品だ。 物語を読み進めると、そこには毒のある甘蜜のような誘惑がある。 それは何らかの試験に臨んだことがあれば、必ず一度は考えただろう共感性、つまりはある種の不正行為への期待を抱かせるものであった。 本作の主人公・宗介は、幼稚園来の親友・和也とともに卓球で汗を流した仲であり、憧れの元卓球選手・鈴村コーチが指導する山野高校を目指す受験生。 しかし二人の学力的な現在地では、山野高校はいささか高い目標だった。 そのため模試を受けながら、試験勉強に励む日々。 そんな折、和也は模試にてA判定を獲得する。そして彼は、宗介にだけ告げるように、『俺、実力テストに出る問題を知っているんだ』と言った。 話を聞いていくと怪しさしかないのだが、宗介はやがて、和也の持つ不正の品を羨ましく思うようになる。 本作の作者・秋水葉月さんは、物語を進行させる二人の他にもう一人の人物を描いた。 局所的な登場ではあったが、その人物の語る言葉には鮮烈な輝きがあり、誘惑に直面し、それに屈した先の後悔を語っている。 とかく人間は誘惑されたとき、悪いことと知ってはいても、メリットばかりに目が向いてしまう。 作品は青春にありがちな心情を彫り出しているように見えて、その実、どの世代にも通ずる普遍的な思想に基づいている。 読者は物語を通して、自らもそれを空想した過去を思うだろう。 だが、秋水葉月さんが仕掛けた女性キャラクターにより、心晴れやかになれる言葉が用意されている。 本作は、不正による後悔へのアプローチをしながらも、読み心地よい若さが感じられる作品だ。 秋水さんの作者コメントでは『全国の受験生、頑張って!』と書かれている。 これから受験を控える学生に限らず、資格試験を控えた大人にも、今積み重ねている努力を柔らかに肯定してくれる7798文字。 勉強に疲れてしまったとき、ぜひこの『試験問題』を力に変えてほしいと思う。
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秋月様、素敵なページコメントの上レビューまでありがとうございます✨ ストーリーとしては別段珍しい話では無いと思うのですが、主人公の『ずるい、悔しい』と妬んでしまうその気持ちをいかに昇華するか悩みながら書きました。 秋月様が10ページ目に書いてくださったページコメントを見て、「そう、それ!」と言ってしまいました。ありがとうございます。
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