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逢いたいひと
秋月 晶
2024/10/29 11:34
直感の導きに彩りがある。
『逢いたいひと』に寄せて、レビューを記します。 ※多くのコトを書きたいので、ですますの丁寧語は廃していきます。 『直感は魂の羅針盤』とは、スピリチュアルの世界でよく用いられる言葉だ。 それは恋愛しかり、運命しかり、危機回避しかり、いわゆる宇宙からの声とされるものだが、論理的に説明できない『本質を捉える潜在能力』に近いのかもしれない。 本作の作者コメントにて、作者である星空さんは、『運命の人はひと目でわかるもの』と書いている。 ここを読むだけでも、本作において直感がキーワードとなる予感を匂わせている。 主人公・鴫原(シギ)は、『星屑』という小説投稿サイトにて、波音というペンネームで執筆を続けるシングルマザー。 彼女は同サイトで読み専として活動するカイに心惹かれているが、彼が男性であること以外に詳しいプロフィールを知らない。 この気持ちが果たして何かと思いつつも、カイからのコメントを楽しみにしている日々だった。 そんな折、かつての図書委員仲間であった広瀬海斗と再会する。 物語は後半、文学フリマにて、シギの直感へとつながっていくが、作者・星空さんの体験記のようであり、または美しい恋愛小説のようでもあるその結末を、読者は祝福したくなるだろう。 作者の代表作『彼の処方箋』や、妄想コンテストで結果を出している作品群を見ても、星空さんの恋にまつわる心象風景を書き表す筆力には定評がある。 角のない柔らかな文章も、恋の機微を見せるのに適し、それが男女でもBLでも年の差でも、感情の共有を生み出すことが上手い。 本作『逢いたいひと』においては、恋の直感を主題としているが、これもやはり心の動きを丁寧に、かつ手を添えるように表現している。 アートに置き換えれば、繊細な色使いや筆使いで描かれた、水彩画のような作品だ。 エブリスタデビュー作の『4/5』から、この繊細さは際立っていた。 本作『逢いたいひと』もそうだが、星空さんの描くキャラクターも作品同様、色彩に富んでいる。 光は優しさに、影は儚さに、と彩りをつけ、今回はそこに直感という強さをあててきた。 小説投稿サイトや文学フリマ、または作者本人の苦悩、葛藤、憧れをシェイカーにかけた美しい仕上がりのカクテルは、読めば心地よい酔いを味わえる。 『羅針盤』たる『直感』が、物語のラストに弾みをつけ、シギが扉を開けるさまを、ぜひご堪能いただきたい。
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