倉橋

あなたはどこへ行くのか~蜜原文学を紐解く~
 今回の作品を読み終え、再び蜜原さんが純文学志向の強い作品に戻ってきた思いを強く抱いた。  この前に書いた『フォトジェニック』『蜂起』は、非常に分かりやすい通俗小説のムードが強かった。もちろん細部では純文学の趣を残しており、私が勝手に名付けた「思索する人間が読むエンターテイメント」に相応しい内容にはなっている。  今回の作品はと云えば、通俗小説のルールである分かりやすくハッキリした結末と云う点では、完全に破綻している。  「起承転結」の「転」の部分で終了しており、結末がハッキリしない点では完全に通俗娯楽小説のルールを逸脱しており、成功とは言い難い。  では作者が度々、述べている「中間小説」のジャンルに入るかと問われたら、私は懐疑的である。結末がハッキリせず、明確なかたちでの方向性も見えてこないからである。  ではこの作品が気に入っていないのかと問われると、それは否定する。  純文学をめざした作品として面白く読み終えることが出来た。  この作品は奇妙な世界で、奇妙なふたりが、奇妙なやりとりを繰り広げる一編の白昼夢なのである。或いは悪夢カモしれぬ。  若者は恋人が人質となっていると語るが、果たしてそれが事実なのか、確かめる術はない。具体的な場面すら浮かび上がっては来ない。  この若者は果たして事実を語っているのか? 妄想に取りつかれ、激しい義務感の下、意味もなく本を探し回っているのか?  運転手の奇妙な言動も、この人物が何かに病んだ可能性を否定できないものである。そしてこれは恐ろしい想像になるが、或いはこの運転手自体、若者の生み出した「助っ人」という幻影なのかもしれぬ。  本当に本からお金は発見されたのか? それとも幻影に過ぎないのか?  ふたりは車に乗って外の世界へと飛び出した。  このまま、学校へ向かうのか?  否、もしかしたら若者の在籍する学校自体、外の世界には存在しないのかもしれない。  この小説に論理的な結末を付けるとすれば、全てはかつて虐めで登校拒否となった若者の病んだ心のつくりあげた一幕の妄想劇に過ぎず、青年は今もひとりで自宅の書庫に閉じこもっているというものである。  この作品は密室で展開する一幕の戯曲かもしれないが、密室を破って巨大に肥大化していく可能性を秘めた不思議な作品かとは思う。  蜜原さんの純文学の傑作になり得ると確信する。      
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 心のこもった、丁寧な感想ありがとうございます。  倉橋さまの読み巧者っぷりが炸裂していて、作者としても嬉しいです✨    『フォトジェニック!』と『蜂起』は通俗小説ムード強かったんですか……!? 『フォトジェニック!』はそうかもですが……。  それにしても、中間小説はたしかに、結尾がもっとキマってないとだめかもしれませんね。  でも、純文学という評価は過分なお言葉ですよー!    倉橋さまの書かれた後半の件は、「信頼できない語り手」、純文学のなかでもかなり書くのが難しい語り手です。  わたしはそこまでのものを書く筆力がまだないです(挑戦してみたくはありますけどねb)。    「密室を破って巨
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