室 雛多

ただ一言『青春』と比喩するに相応しい作品だと思う。 まず時代背景が今ではないのが興味を引き立てる味になるだろう。携帯で呆気なく連絡が取れ、簡単に約束や想いを共有できる現代とは違い、なかなか触れ合えない心が時代と共に登場人物たちの間に蔓延っている。 本作は一見バスケを題材としているが、それだけで本作『First Break!』を語ることはできない。この作品を語るに一番相応しいのは『初恋』と『青春』。時に男たちの友情を描き、時にもどかしいヒロインの姿を有りのままに表現している点には脱帽せざるを得ない。 その上多数の人物に視点を置き換えることで、それぞれの悩みが一層顕れている。初恋、嫉妬、進路、憧れ。それら全て、青春を生きるが故に味わう苦味だ。例えば作中では二人は互いに素直になれず、時に近付き、すれ違いながら日々を過ごしているという場面が多々ある。これには非常に感情移入をさせられた。何度「もどかしい」「素直になってあげて」と思ったことだろう。 また主人公は一人二人ではない。多くの人たちが悩みを抱え、それでも尚、懸命に前に進んでいる姿には感銘を受けた。きっと前作『キミとボク』を読んでいると、さらに思わず考えさせられる場面があること間違いない。 ただバスケにひた向きな少年少女を描くだけではない。ありふれていて、しかし大切な日常を瑞々しく表現した作品だと私は思う。これこそ青春。そう称賛を贈りたい。 [9/8追記] そして今役者は揃い、夏が終わり冬が訪れた。WCでの試合は辛く苦しいものであり無情と言う外なく、後味が悪いものだった。しかしそれもスポーツをする上で当然の事であり、WC編は『敗北による後味の悪さ』が忠実に描かれていると思う。物語が佳境に進む上で、この敗北と敗北後の展開は非常に心に残る大切なもので、昇華し励めと応援したくなる回であった。 ただスパッと次に進むのではなく、学校行事や恋愛描写も挿入されているのが、これまたよい。時間の流れを無駄無く、しかし鮮明に表しているのが素晴らしい。 舞台は遂にリベンジ戦へ。 佳境に向けて頑張ってください。
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何という丁寧なレビューを! 本当にありがとうございます! いただいたレビューに答えられる作品になるように頑張ります(*^▽^*)ゞ

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