-Kouzaki-

・短編小説-一人- あの子は、姉のことが大好きだ。 「……お姉ちゃん」 「なあに。今、忙しいの」 「……ううん。なんでもない」 あの子の姉は冷たい。あの子を無下に突き放す姿は、触れる肌を刺す氷を思わせる。 「お姉ちゃんは、仕事があるから」 あの子はいつも、言い訳のようにぼくをそう諭す。 「……仕方ないよ」 あの子がいなくなると、姉はすぐに隠した酒に手を伸ばすことを、ぼくは知っていた。 ぼくは、あの子の姉が嫌いだ。 「……お、お姉ちゃん」 「ねえ。私、忙しいの。見てわからないのかしら」 「…………あ、アイス……一緒に……」 「いらないから、早く出てってよ」 あの子の姉は、口より多く手が出る。あの子の小さな頭を、遠慮ひとつなく叩き、部屋からつまみ出す姿は、ぼくの母がゴミを捨てる時のそれによく似ていた。 「私が、お姉ちゃんを怒らせるようなことしたから」 あの子はいつも、自分に言い聞かせるように姉を擁護する。 「明日、謝ってみるね」 胸が詰まりそうになるこの笑顔を、ぼくは何度見てきただろう。その度に、何度あの子に真実を伝えようとしたか、両手の指では数えられない。 「……お姉ちゃん。昨日は……」 「あらいいのよ。それより、今から出かけるから。私の部屋、片付けておいてね。明日には帰るから」 「……えっ……ご、ご飯は」 「それじゃあね」 「あ…………」 あの子の姉は汚い。自分の都合に合わせ、あの子を好きなように利用する。恋しがり、付いて回るあの子を、たかる羽虫のように見下ろす目は、泥水のように汚れていた。 あの子の姉は、あの子のことが、大嫌いだ。 「……お姉ちゃん……わたしのこと、嫌いなのかな……」 それでも。 あの子は、姉のことが、大好きだ。 ぼくは「そんなことはないよ」と、欠片も心にない言葉しか用意出来なかった。いつか、もしかしたら、と宙を漂う灰のように微かな期待を抱いて。 あの子を笑顔にするまで、その日のぼくは帰らなかった。ようやく、小さく微笑んだあの子を、帰路へ見送り、夕餉の頃に帰った。 その翌日。 あの子の姉は死んだ。 -----コメントに少しだけ続く
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街の外れに止まっていた車の中で、眠るように事切れていたらしい。原因は、あの子に知らされることはなく、もちろんぼくの知る由もなかった。 姉しか身寄りのいなかったあの子は、程なくしてぼくの家に住まうことになり、それから少しの時間を置いて、ぼくらは一緒にお墓参りに行った。 帰る時間になっても墓前で泣きじゃくり、動かないあの子を、ぼくの母は優しく抱えて車へ連れて行った。 あの子の姿を遠くに見ながら、ぼくはあの子の姉が死んで数日後、警察から手渡された、ぼく宛ての遺書を手に取った。 この日まで中身は読まないでくれと、封筒には書いてあった。けれどぼくには、何故あの子ではなくぼく宛てな
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そっちの方がいいと思ったんですね…… 切ないなぁ
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何とも切ない話ですね。 私は基本的にハッピーエンドが好みですが、このようなエンドも好みです。 ぼく、という視点からの、一人称と二人称を掛け合わせた物語の進み方が良かったなと思いました。 ただ、個人的には姉がどうして大好きな妹に冷たく接していたのか理由が気になりました。 あと、遅くなりましたが復帰ありがとうございます。 最近多忙でコメントに返信できませんでしたがこの機会にと。 体と精神の健康が一番ですので、無理はしないで自分のペースで、程々に頑張ってください。
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私もハッピーエンドが好きですが、バッドエンドも癖になります。 妹が自分を大好きだとわかっているからこそ、自分が死んでしまった時に少しでも妹の悲しさを紛らわせる為に嫌われようと、そんな感じです。 身体は未だに調子戻りません。 みなさんには本当ご迷惑をおかけしますが、どうかご容赦を……。

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