蒸気機関車を模したライドが、ゆっくりと動き出す。  前に、後ろに。揺れとスピードに比例して、乗客の悲鳴のような歓声も大きくなる。リンとクリスも、都市伝説などすっかり忘れ、汽車のスイングにあわせて声を上げた。  ライドの最高到達点が、徐々に上がっていく。  折り返すその一瞬、訪れる速度ゼロ。身を包む浮遊感が、興奮を加速させる。  何度目かの、前方へのスイング。  今までで最も高い到達点で、リンは叫ぶために息を吸い。  その瞬間、世界の速度がゼロになった。  揺り戻るはずのライドが、周囲の歓声が、自動で色を変える照明が、リンの顔周りで広がった彼女の髪が──リンの思考以外のすべてが静止する

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