(1p目)    え? お母さんとお父さんの馴れ初めを教えてって? い、一体急に、どうしたのよ。馴れ初めなんて聞いてもしょうがないでしょうに……。それでも話してって? うーん……どうしよっかな。多分、ひかりが想像してるような普通の恋物語じゃないわよ? それでも、良い? ……うん。分かった。それなら教えてあげるわ。      ——それは、ちょうど二十一年前の春のことでした。エブリスタ遊園地というちょっと変わった遊園地がありまして……いえ、今もあります。エブリスタ遊園地は、ちょっと変わった、しかしとっても素敵な遊園地です。    ……えっ? 急に語りだしたこの私は誰かって? 何を隠そう、私
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(2p目)  さて、私がお嬢様たちのお話に聞き入っている間に、係員の星野くんはお客様全員の案内をおえたようです。新人なのに、優秀なんですよ、この子は。私が操る四十八個のブランコは満席。すると星野くんが、こちらに向かって手を振ってくれます。これは、準備完了の合図。私は気合を入れて、今宵最初の運転を始めました。  乗っているお客様たちは、眼下に広がる景色に目を輝かせています。涼しい夜風を受けて、回転しながら行われる空中旅行。自分で言うのもあれですが、素敵でしょう?  そうこうしている間に、またまた星野くんが合図を寄越したので、夢のような空の旅は終わりとなりました。お客様たちは、名残惜しそう
(2p続き) 「「運命の人……」」  その話を聞いたお嬢様たちは、その素敵なワードに色めきだって頬を紅潮させました。しかし、星野くんの表情は相変わらず晴れません。 「ですが……今回に関しては、これがその都市伝説なのか、僕には分かりません。その満月眼鏡の人が誰なのかは、僕にも心当たりがあるんです」
(3p目)  星野くんが推察する満月さんの正体は、私にもかなり馴染みのある人でした。月島奏夜さん。星野くんの先輩で、私の運転係前任者です。  実は月島さん、二か月前に、大きな病気が発覚して、それを機にエブリスタ遊園地を退職してしまいました。たまに星野くんが電話で話しているのを漏れ聞く限り、病状はかなり悪いようです。 「月島さん、今日の朝から手術なんです。でも、成功率はかなり低いらしくて。今のところは、何の連絡も来ていないのですが、もしかしたら……」  星野くんは、俯いて続けます。 「月島さん、本当にこのエブリスタ・スイング・ライトが好きだったから。もし自分が死ぬとしたら、最期に一度
(3p続き)  回転ブランコが見せてくれた夢と運命。私たちの馴れ初めは、そんな感じだったわ。それ以来、私たちは何度もあの遊園地でデートをしたし、あなたのことも何回も連れて行った。 だから、エブリスタ遊園地は……私の幸せが、全て詰まった場所というわけ。
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