「おい、あんた。しつこいんだよ。注意喚起だとしても、こっちが黙ったら止めろよ!」  しかし怒気をはらんだ雄太の文句にも、相手はまるで動じなかった。じっと雄太の目を見つめている。男は口を開く。透き通るような声だった。 「俺の名前はカンバラ。あんたは?」  唐突な名乗りに、雄太は虚を突かれたのか驚く。 「だ、だれもお前の名前なんて聞いてねえよ。二度と壁を叩かないでくれ」  何か付けくわえようと唇をふるわせるが、言葉は出てこない。「もういい。部屋に戻るぞ」と私に声をかけて踵を返した。  私は隣人に「うるさくしてごめんなさい」と頭を下げて戻ろうとする。顔を上げるとカンバラの目が射貫くように私をみていた

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