その父が、愛用していた時計。爆弾が仕掛けられたバスから、乗客を救う主人公が着けていたデジタル時計だ。 「この時計が好きなお父さんか。なんか親近感を持てるなあ」  にこにこと彼がほほ笑む。  私は椅子に座りなおして、少し会話をすることにした。面白い偶然だ。カンバラに怯えて話を切り上げるのも、癪だとも思い始めていた。  互いに名乗る。彼は濱大樹という名で、この付近の引っ越し屋で働いているそう。年齢は私の三歳上で、三十ちょうど。  私は、優しかった父がその映画を好きな理由を話す。それからホテル業と、濱さんの引っ越し業の苦労話をした。あと、奥にいるカンバラに迷惑しているということ……。    初対面

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