異なる時代や社会の作品を理解するためには、その時代、その社会の状況を理解する必要があると思います。漱石は近代化によって伝統的な共同体が崩れ個人主義のなかで人々が孤独と不安に陥っていく様を生涯を通して描いていました。「吾輩は猫である」は新聞に連載されて人気を博していましたが、これも例外ではありません。読者たちも時代の空気や未来の気配に対する敏感な感受性があったのではないかと私は想像しています。 漱石の文には禅書からの引用が非常に多く、禅と基礎的な漢語の教養がないとちゃんと読みこなすことは難しいと思います。 ことほど左様に、作品と読者が置かれた文脈への理解なしには小説の評価は難しいものだと思い
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