無題

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いつの頃からか、森羅は部屋で一人で寝るのが義務付けられていた。 会社が、まだ未練がましくあがいていたなんて事実は知らない。 森羅も、端からみれば"お嬢様"。 「こわくて、いや」 そう言ったところで、大人が取り合ってくれるはずもなく。 「水無月家の名に恥じぬ子でありなさい。でなければ、この家の子ではありません」 では一体誰の子か。などと、まだ小学校にあがる前の子が反論を持つはずもなく。 広いベットの隅っこで、小さくなって眠った。 隣の部屋では、父と母と弟が3人で寝ているのに。 酷く、遠くに感じ、一人、疎外感を感じていた。 森羅の部屋には、天井まで届くガラス棚があり、その中には母親の趣味で、ありとあらゆる人形・ぬいぐるみが収められていた。 ビーズの目、硝子の目。 温かみのない、冷たい多くの目だけが、森羅を見つめていた。 (こわい、こわい…) いつ動き出すとも知れない多くのぬいぐるみ。 夜には月明かりに照らされ、ぼんやりと光る硝子戸。 大小様々な人形たちは、子供に抱きしめても貰えず、冷たい硝子戸の中。 硝子に隔てられた向こう側にいる子を、もしかしたら人形たちは、本当は、愛していたのかもしれない。あるいは憎んでいたのかもしれない。 でももう、それは誰にもわからない。 やっと硝子戸から出られたと思ったら、その時はもうゴミとして…。 あるいは誰かに、もしかしたら貰われたのかもしれないけれど、彼らはもう二度と、森羅に会うことはなかった。 10年経った今、森羅はその人形たちの"目"を思い出す。 きっと自分は、同じ目をしていたのだろう…と。
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