序章『菩薩眼(ぼさつがん)』

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彼女の前に密書を持ってきた使者とやらは、急ぎ早に姿を消した。 妖狐「やれやれ…、人使いが荒いもんだねぇ、朝廷ってのは…」   密書を片手に立ち尽くしている妖狐のもとに一人の男が現れた。 卍丸「その様子だと朝廷からの密書を手にしたばかりだな」 妖狐「なんだぃ。誰かと思ったら卍丸じゃないか…」   この卍丸(まんじまる)もまた妖狐と同じ密命を受けた一人である。 左側の眼が傷で塞がれ、覗き込むようにして妖狐を眺める黒装束の男…前髪を長く伸ばして左眼を隠している。   妖狐「貴方(あんた)もこれと同じものを…」 卍丸「あぁ、昨晩のうちに拝借したところだ」 妖狐は懐に密書をしまった。   妖狐「龍脈が乱れてると…」 卍丸「そういうことだ。どうだお玉、お前も行くんだろ?」 妖狐「ちょっと、お玉と呼ぶのはよしておくれよ!私はお葉ですから」 卍丸「玉藻(たまも)が本名だろ!?だからお玉でいいじゃねえか」 妖狐「知っているのは貴方だけとはいえ、許しやしないよ」 卍丸「そうかぃ、そうかぃ。すまねぇな、お葉…して何処に行くんだ?」 妖狐「さて…ね。私は私で好きにさせてもらうつもりさ…」   妖狐は一人歩いて行った…
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