序章 縁の災日

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 “海辺の家”  この言葉から連想される光景は、どんなものであろう。  窓辺に揺れる白いカーテン、 同じように白い柵に囲われ、 敷地内には広々とした芝生の庭のある別荘。  それとも、 軒に赤茶けた漁網のかかった、板葺きの粗末な漁師小屋だろうか。  では、もう少し具体的に付け足しをしよう。  それは厳然とした風格を見せて鎮座しているのは家ではない。 土蔵である。 小高く盛り土をした上には50㎝ほどの石垣がある。  蔵を囲む屏のすぐ横には、海水の混じった小川(クリーク)が、潮の干満に従い幅と塩分濃度を変えつつ、海に注いでいる。  明かり取りの小窓から見える景色は、そう悪くはないのだが…。
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